雑誌「文芸生活」58号(新文化社)について外狩雅巳氏が「詩人回廊」にその因縁を書いている。目立ったのは雑誌の表4に西部デパートの広告が出ていることだ。小さな文芸雑誌には不似合いな、大企業広告である。ひょっとして、と思って、雑誌の投稿規定を見ると、そこに創作指導/選者のメンバーが名がある。
そのなかに、やはり辻井喬(詩人)というがあった。応援をしていたらしい。そのほか、高井宥一(作家)、小松伸六(評論家)、久保田正文(評論家)、奥野健男(評論家)、半沢良夫(作家・本誌編集長)、伊藤桂一(作家・詩人)、嶋岡晨(詩人)など、かつてほでもなくても、当時でも錚々たるメンバーである。
編集長の半沢良夫は、この年「ジプシー分隊―わが青春の墓標」を刊行している。雑誌の構成は、会員制同人誌で市販はしていなかったようだ。
久保田正文の投稿作品評には、「うまいが感動しない」として、どれもソツなく書けているが感度をしない、という小説技術の巧さだけでは、物足りなさを指摘している。
一方、詩の部門では、伊藤桂一が「詩の格と才質」として、詩にも、長年の勉強で、作品に格がにじみ出るということを記している。選んだ作品には、一読してもさりげないさが印象に残るものがある。
これらは、現在の同人雑誌に共通の指摘である。
小説では、通常は男の「妻帯者」に対する外狩氏の家族の田中萱「夫帯者」というのが選ばれている。巧いもので、文章の感性に優れている。もう一つの森屋耀子「田園監視人」も優れていて、題材も現代的だが、時代に合えば、世に出ていたのであろうと思われる。ちなみに、この年の直木賞は、向田邦子や志茂田景樹が直木賞などを受賞している。
映画では自分は、鈴木清順「チゴイネルワイゼン」、黒澤「影武者」、コッポラ「地獄の黙示録」を観た年であった。
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