2009年1月 7日 (水)

「文芸時評」毎日新聞西日本地域版2008年12月20日朝刊「言葉の森から」小説編<10~12月>松下博文氏

宮原敏博「会津の女」(「龍舌蘭」147号)、周防凛太郎「嘉平の遺書」(「Garance」16号)、阿倍里美「木の下、光の中」(平成20年度福岡県高文連散文部門最優秀作品・筑紫女学園高校3年)
冒頭で藤沢周平「盲目剣谺返し」の映画化「武士の一分」に触れ、文末は以下の文章で結ばれている。
「山口県宇部市で発行されている「飃」79号には地元の高校生の作品が掲載されていた。近くの中学校や高校を巻き込んで同人誌主催の文芸コンクールを実施してみたらどうだろう。何かをやってみよう。そしてひとりになっても、書きたいものを書くこと。それが物書きの一分ではないか。」
新聞の切り抜きを送ってくれた立石さんに感謝いたします。(「文芸同人誌案内」掲示板・日和貴さんまとめ)

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2008年12月31日 (水)

文芸時評<12月>生死、心の機微…短編に凝縮(読売新聞12月24日)

文芸誌の新年号は、以前は新春顔見世興行の趣で、老大家から若手まで現役作家の短編がズラリと番付のように並ぶのが通例だった。そんな伝統も廃れて久しいが、遺風が少なからず残っているためだろうか、今月は短編が粒ぞろいだった。
 辻原登氏(63)「虫王」(新潮)が描くのは、コオロギ同士を闘わせる「闘蟋(とうしつ)」という遊びだ。17世紀半ばの中国は明が倒れ、清が興る激動の時代。清軍の揚州攻めで杭州へ妻子と落ちのびた明の趙参将は、亡国の屈託と、流行(はや)り病で娘を亡くした失意の中でコオロギにのめり込み、最強の一匹を育てる。その虫に託された滅ぶ側の無念と誇りが、短い物語の中に結晶している。息詰まるような虫の闘いのあと訪れる結末は、とりわけ鮮やかだ。
 石原慎太郎氏(76)「生死刻々」(文学界)は、六つの掌編からなる。その1編「おみくじ」は、肺がんになった〈彼〉の、手術の朝の小さな出来事。仕事も順調、長女は来春挙式を控える。人生の主導権を常に手中にしてきたこの男は、患者という〈生まれて初めての、すべて他人まかせ〉の立場が居心地悪くて仕方ない。氏の文学の特質である生死の対照はここでも鮮烈だが、さらに「老・病」のテーマが低く響いて「生・死」の陰影を一層際立たせた。
 ひとつ屋根の下というかすかな縁で結ばれた都心のマンションで起きる不思議な因縁を見つめたのは河野多惠子氏(82)「その部屋」(新潮)。小学校時代の同期生の姉が越してきた。入居した部屋は、前の居住者が浴槽で病死していたといういわく付き。何やら怪談めくが、メールボックス前でたまに顔を合わせる程度の淡い関係に兆す違和感から、平坦(へいたん)な日常に潜む裂け目を見せられる思いがした。
 ベテランの年輪を感じさせる作品ばかりでなく、若手も気を吐いている。青山七恵氏(25)「欅の部屋」(すばる)は、別れた後もマンションの別の階に住む男女の機微をとらえた。その女性との出会いと今も残る未練が、別の女性との結婚を目前にした〈僕〉の視点から語られる。青山氏は「お上手」(文学界)では、会社勤めの女性の内面を、靴の修理屋さんとのやりとりを起点に浮かび上がらせている。
 今年は大長編が話題を呼ぶことの多い1年だったが、そぎ落とされた小さな世界の中に奥深い宇宙が広がっていく短編小説の醍醐(だいご)味が、ここには確かにある。

 今月はユニークな小説にも出合った。多和田葉子氏(48)「ボルドーの義兄」(群像)は、左右反転した漢字が見出しのように配され、短い断章が積み重ねられていく形式の作品。独ハンブルク在住の日本人女性が、あるきっかけで仏ボルドーへ旅する。その旅に、彼女がこれまで出会った人々の記憶が流れ込む。喪失と無常、言葉と人間の孤独が、それら断片の連鎖するまにまにうごめいている。水村美苗氏『日本語が亡びるとき』(筑摩書房)が話題だが、多和田氏が日本語で書くことの意味に極めて自覚的な作家であることを再認識させられた。
 佐藤友哉氏(28)「デンデラ」(新潮)は、70歳を過ぎて「お山」に捨てられる村の老婆たちが生き延びて作った共同体の興亡を描く。自分を捨てた村への復讐(ふくしゅう)を主唱する一派、襲い来る羆(ひぐま)、流行する疫病――。猜疑(さいぎ)が猜疑を呼ぶ閉鎖された空間ならではの空気を醸して畳みかける、語りの推進力に引き込まれるが、型破りな割には展開が意外にオーソドックス。物足りなさも少し残った。
 今月完結した伊藤たかみ氏(37)「海峡の南」(文学界1月号~)は、祖父の容体が悪化し、はとこと北海道に行った〈僕〉が、行方不明の父の記憶を呼び覚ます物語。若き日の父は、内地に何を夢見て津軽海峡を渡ったか。関西で無謀な金もうけを企てては失敗を繰り返し、やがて行方をくらました父の不在が、心定まらぬ自身の現在に重なる。祖父の死に目に駆けつけるかもしれない父を待つ宙づりの時間の中で、自らの長すぎた青春を見つめ直している〈僕〉のためらいが魅力的だった。(文化部 山内則史)

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2008年12月26日 (金)

文芸時評12月(東京新聞12月24日)=沼野充義

タイトル=佐藤友哉「デンデラ」『姥捨て山』結束する人々/多和田葉子「ボルドーの義兄」多言語的な小宇宙。
《対象作品》水村美苗「日本語が亡びるとき」(筑摩書房)/佐藤友哉「デンデラ」(「新潮」)/多和田葉子「ボルドーの義兄」(「群像」)/藤井省三・国際シンポジューム報告「東アジアが読む村上春樹」(「文学界」)/青来有一「夜の息子、眠りの兄弟」(「文学界」)。

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文芸時評12月(毎日新聞12月24日)川村湊

タイトル=「文学の芸術性」「物語に表出しない『自己』」「大作は若手作家の苦業か」。
《対象作品》佐藤友哉「デンデラ」620枚一挙掲載(「新潮」)/多和田葉子「ボルドーの義兄」(「群像」)/松浦寿輝「川」(「群像」)/辻原登「虫王」(「新潮」)/青山七恵「欅(けやき)の部屋」(「すばる」/同「お上手」(「文学界」)/水村美苗「日本語が亡びるとき」(筑摩書房)/同「日本語は亡びるのか」(「文学界」)/同「日本語の危機とウェブ進化」(「新潮」)。

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2008年12月15日 (月)

08年・文芸この1年(毎日新聞12月9日)3氏が選んだ小説ベスト5

☆川村湊(文芸評論家)選=平野啓一郎「決壊」(新潮社)/飯嶋和一「出星前夜」(小学館)/リービ英雄「仮の水」(講談社)/津島佑子「あまりにも野蛮な」/楊逸「金魚生活」(「文学界」9月号)。

☆野崎歓(東京大准教授・フランス文学)=平野啓一郎「決壊」/町田康「宿屋めぐり」(講談社)/絲山秋子「ばかもの」(新潮社)/堀江敏幸「未見坂」(新潮社)/マリー・ンディアイ、笠間直穂子訳「心ふさがれて」(インスクリプト)。

☆松永美穂(早稲田大学教授・ドイツ文学=リービ英雄「仮の水」(講談社)/多和田葉子&徐京植「ソウルーベルリン玉突き書簡」(岩波書店)/ジュンパ・ラヒリ、小川高義訳「見知らぬ場所」(新潮社)/ギュンター・グラス、依岡隆児訳「玉ねぎの皮をむきながら」。

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2008年12月 7日 (日)

文芸時評「讀賣新聞」西日本版12月5日夕刊・松本常彦氏

タイトル:「総括」困難なあの「時代」
吉川成仁『無伴奏ヴァイオリン・ソナタ』(鉱脈社)
久木綾子『見残しの塔-周防国五重塔縁起』(新宿書房)・「文芸山口」(山口県)連載作品をまとめたもの。(「文芸同人誌案内」掲示板・日和貴さんまとめ)

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2008年12月 2日 (火)

「西日本文学展望」西日本新聞12月1日朝刊/長野秀樹氏

<今月は、医療の現場を舞台とした作品が目をひいた。>
辻一男さん「嗄声(させい)」(「詩と真実」713号、熊本市)、都満州美さん「白衣を脱ぐ時」(「海峡派」114号、北九州市)。
朝比奈敦さん「町医者」(「飃」79号、山口県宇部市)、井上明さん「遂に花開く」(「詩と真実」)。
「飃」では米田直人さん「街という名の主人公」が、高校生としては落ち着いた描写力があり、将来を期待させた。
「文学界」本年度下半期優秀作、江口宣さん「イエスよ涙をぬぐいたまえ」(「九州文学」)。(「文芸同人誌案内」掲示板・日和貴さんまとめ)

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2008年12月 1日 (月)

文芸時評11月(東京新聞11月26日)=沼野充義

タイトル=谷崎由衣「ガルラレーシブへ」自分探す旅の快さ=加藤典洋・長編評論「薄れる“主人公の単一性”」=ゆっくり感に深み「同人誌優秀作」。

《対象作品》阿部公彦「スローモーション考」(南雲堂)/「文学界」同人雑誌優秀作・江口宣「イエスよ涙をぬぐいたまえ」(初出「九州文学」・文学界)/宮崎誉子「青瓢箪」(「新潮」)/谷崎由衣「ガルラレーシブへ」(「群像」)/加藤典洋「関係の原的負荷―二〇〇八、『親殺し』の文学」(「群像」/藤元優子ほか・特集「イラン女性文学」(「すばる」)。

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2008年11月29日 (土)

文芸時評(毎日新聞)11月25日=川村湊(文芸評論家)

タイトル「小説の中の小説家」「描かれる“存在”の軽さ」「言葉の復活、逆説的にもくろみ」
《対象作品》清水博子「台所組」(群像)/鹿島田真希「酔いどれ四季」(すばる)/宮崎誉子「青瓢箪」(新潮)/上村渉「射手座」(文学界)/松波太郎「廃車」(文学界)。

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2008年11月14日 (金)

文芸時評(讀賣新聞・西日本地域版11月7日夕刊)松本常彦氏

《対象作品》渡邉弘子「漬物石」(「南風」24号)・野見山潔子「ここにおる。」(「季刊午前」39号)。由比和子の歴史小説集『月兎慕情』(花書院)。今村元市『北九州文芸あれこれ』(せいうん)について、北九州の文芸を知るには不可欠必備の一書。(「文芸同人誌案内」掲示板・日和貴さんまとめ)。

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