(文化部 村田雅幸)
「はみ出し刑事」 男の誇り
人生、できれば裏切られずに過ごしたいものだ。が、小説は別。大沢在昌「狩人」シリーズ6年ぶりの第3弾『黒の狩人』(幻冬舎)は、いい意味で読者を裏切る。
主人公は、前2作で脇役だった新宿署の暴力団担当刑事・佐江。組織におもねらぬ「はみ出し者」ゆえ、畑違いのやっかいな事件にかり出されてしまう。
中国人ばかりを狙った惨殺事件が連続した。被害者に共通するのは、謎の刺青(いれずみ)があること。事件の背後には、中国国家安全部の影が見え隠れし、警視庁公安部も水面下で動くが、表だった捜査は佐江と、突如コンビを組まされた正体不明の中国人・毛とに任される。
佐江が何とも魅力的だ。すねた男かと思えばさにあらず。〈カス札にはカス札なりの意地がある〉と吐く、タフガイなのだ。物語自体も、心理戦あり銃撃戦ありで一瞬たりとも目を離せない。加えて読み手は、予想を何度もひっくり返される。毛の視点から現代日本を客観的に浮かび上がらせたのも新鮮で、読者を存分に楽しませつつ、最後には、自分も誇り高く生きたい、とすら思わせるだろう。 大沢在昌『黒の狩人』(上、下)痛快度★★★★☆ 疾走感★★★★★ 満足度★★★★☆
恩田陸『きのうの世界』(講談社)は、軽々とジャンルを越境するこの作家にふさわしく、ミステリーともファンタジーとも、あるいはホラーともつかぬ独特の雰囲気を漂わせる。
〈そこにあることに意味がある〉と伝えられる塔が3本立つ地方の街で、1年前に東京で失踪(しっそう)した男の死体が発見された。男はなぜ、ここで死んだのか。その謎と街の秘密とを、寄せては返す波のように少しずつ明らかにしていく恩田節とも言うべき「語り」が、今作はとりわけすばらしい。〈あなたは……〉という誰に向けたか分からぬ呼びかけで始まり、それに続く〈捨てられた地図〉〈焚(た)き火の神様〉〈同じ顔をした男〉といった意味深なキーワード。登場人物たちの目に映る物も少しずつズレており、核心に近づいたかと思えば、また遠ざかる。慣れぬ読者は戸惑うかもしれないが、結末に真っすぐ向かわないからこそ生まれる奥深い世界もあるのだ。 恩田陸『きのうの世界』幽玄度★★★★☆ 意外性★★★★☆ 満足度★★★★
湊かなえのデビュー作『告白』(双葉社)は、教え子に娘を殺された中学教師の復讐(ふくしゅう)劇を、教師や犯人、級友らのモノローグを積み重ねて描く力作。ある独白を読めば、それまで嫌悪していた犯人に同情し、しかし別の独白を読めば、陰鬱(いんうつ)とした気分に逆戻りする。
人の心とは難しい。単純に黒白とは分けられず、その間のグレーにしても、数えきれぬほどの段階がある。が、著者は新人離れした筆力でこの難敵に立ち向かい、成果を残した。いくら読み進めても救いがないのに、どうしても本を手放せないなんて……。今後の期待も大きい作家の原点を、みすみす見逃す手はない。湊かなえ『告白』衝撃度★★★★ ダークさ★★★★☆ 満足度★★★★
最後は少し毛色の変わった作品を。ドナ・ジョー・ナポリ『わたしの美しい娘』(金原瑞人、桑原洋子訳、ポプラ社)。著名な童話を下敷きに、全く違った切り口から新たな作品に仕立ててきたナポリの新作は、グリム童話「ラプンツェル(髪長姫)」の変奏曲だ。娘を思う母の狂おしいほどの愛が、逆に娘を傷つける。果たして母子の運命は? いつまでも余韻が残る結末が待っているとだけ記しておく。ドナ・ジョー・ナポリ『わたしの美しい娘』切なさ★★★★☆ 独自性★★★☆ 満足度★★★☆
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