事情により、当面の活動をお休みします。
パソコンの切り替えで、操作が不調になり、肩に故障でました。寄贈いただいた雑誌も整理ができません。紹介の期待での、寄贈を中止願います。これまで雑誌のご寄贈ありがとうございました。
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【「全家福」津之谷季】
昭和56年に政府の第一回中国残留孤児訪日肉親捜し調査が実施された。昭和58年の春、T市役所に中国から一通手紙が届く。役所では、小金井という職員が、中国語の後の読み書きが出来るというので、翻訳をさせられる。そこには、1945年満州にソ連軍が侵攻してきて、家族は殺害され、子供は逃げる最中に中国人家庭に引き取られる。そうした運命をもつ家族が来日する。そこで小金井は、臨時通訳をさせられて、その家族と交流も生まれる。その家族は、試しに日本に住んで、その後日本に永住する。資料と体験をもとにした話だが、中国人と日本人の歴史に挟まれた交流の姿の一つとして、さまざまな感慨を生む。
【「ボヘミアン」越生恵那】
本号の文芸誌らしさを示した個性に満ちた文学的作品として読んだ。若い頃から、深い下案恵に関係にありながら、互いに別の相手と結婚し、その後も関係のあった健二。作中、――そんな健二と数十年のときを経て再会したのは、わたしからのアプローチだったーーとあるので、高齢になった「私」と健二の関係を軸に、自らの情念を語る。健二は、自分を好きなんだという確信。会えば関係を求める健二。夫を愛していると思いながら、健二と交際が切れない私の心情。―私は健二を媒介として異性に扱われることの特別感に目覚めてしまったのだ――どっぷり現実につかりながら、幸か不幸か私の感覚は、いっこうに現実味をおびることがない。それでも否応なく現実に引き据えられているーーなどなど、人が人を愛するという現象の中に浮かぶ私の様々な情念を表現し、愛をめぐる人間性を考えさせる含蓄に富んだ、秀作に読めた。非常に文学性に富んだ作品である。
【「母の久谷焼」早瀬ゆづみ】
母が「よめり道具」(嫁入り道具)といっていた九谷焼が出てくる。お見合い相手であった夫のくれた指輪の小さく派手さのなさに愚痴をいい。昔の「ものない時代の」の思い出話などをよくする。当時は戦後の廃墟から抜け出したばかりで、円も1ドル360円から300円の時代。輸入品は舶来といって贅沢品であった。1ドル150円程度など、物のない時代の生活をすれば、なんでもない。
【「夢の重みー古墳ガール&古墳ボーイ」逢坂りん】
古墳オタクの高齢者グループが村上遺跡や経ヶ峰一号墳を見学する。それなりに面白い。
【「200名城気まま歩き」小林眞里子】
お城オタクの見物記。かなりハイレベルな知識が披露され、読んでも面白い。「鉄砲隊と騎馬隊が戦った長篠城」「徳川家康生誕の地、岡崎城へ」「山内一豊が大改修した掛川城」「信玄も落とせなかった高天神城」「巨大な丸馬出と空堀がある諏訪原城」「家康が逃げ帰った浜松城」という中身だしでの内容がわかりやすく記されている。自分も城好みなので、面白かった。
【「ニューヨーク ぶらっと旅」水上浩】
トランプ以前のNY旅行記。コロナパンデミックの以前のアメリカの状況がわかる。書き慣れた文章で、読ませる。
【SFファンタジー「メビアとヒーリア」そらいくと】
平凡なアイドル歌手の面白みのない歌が、奇妙に世界中で流行ってしまう。ジャーナリスとの語り手は、その秘密を追求する。すると何やら宇宙のパワーの影響であることがわかる話。飛躍が小さいが、それなりに地道な面白さがある。
その他、それぞれ短いエッセイ風のものが多くあり、それなりの感想が浮かぶが、省略させてもらう。
発行所=〒440-0896豊橋市萱町20,矢野方。「果樹園の会」。
紹介者=北一郎。
【「海辺に降る雪」苅田鳴】
北海道でホームビルダー企業の営業をしている時田は、札幌で税理事務所を経営する仲村という男から、海辺近くに家を建てる注文をうける。海辺に庭のつながっているプライベートビーチに感じるようなところがよいという。時田は、ほかに町中のよい立地の選択を薦めるが、仲村は譲らない。そこで、注文に合う海辺に家を建てる。仲村の妻も夫の要求に従順であろうとしている。こうした新しい家への希望のなかで、注文主の仲村には、片脚を切断する病気に見舞われる。家のできあがりへの希望と、仲村の病の悪化が進む。仲村は両脚の切断までいく。それでも家を障害者用の設計変更をして、完成をよろこぶ。そして、仲村は死んでしまい、その後、家にひとり住んでいた夫人の火の不注意からか、火事になって全焼してしまう。変わった話で、家の新築と注文主の運命が反比例する経緯が、暗い運命の印象として残る。仲村とその妻、営業の時田の3人の人間的な内面描写に不足があるが、妙に重い印象を与える。話の素材と運びにかんしては、作家として黒岩重吾の初期の作風を思わせる。構成から雰囲気作りに作家的な手腕を感じさせる。それにしても、タイトルが、テーマを持たない漠然としたものからすると、本当はなにを表現したかったのか、作者の無自覚性が気になる。
【「犬と暮らしたい人」三上弥栄】
タイトルそのままで、ペットに犬を飼いたい女性のお話。女性の人称も「誌音さん」、夫は「夫さん」という言い方である。タイトルも「誌音さん」を「人」と称する。町角での会話で、「私って、○○のひとなのー」というような言い方を耳にしたことがある。小説の文体に多様性が増してきたようだ。
【「真実」清水園】
真実という名の女性のところに、かつて大学性時代のゼミで教授が教材につかっていた太宰治の作品のひとつ「人間失格」送られてくる。送り主は、同じゼミにいた猪野というゼミ仲間であった。彼女の存在は、スクールカースト的にみて、下位の目立たない存在であった。真実は、つまらないことをする猪野のことに侮蔑心をもって、同様のことを当時の学友に行っているのではないかと、あちこちに電話で問い合わせてみる。そのうちに猪野の知られざる実態が、友達仲間の話からわかってくる。そして、実際は、彼女は裕福な家柄の娘で、真実よりもカーストの上位の存在であったことに気づく。大学生活の階級的な差異を題材にし、面白く読ませる努力に感心した。
【「かりそめ」水無月うらら】
スーパーのパン工房で働く男の「わたし」は、自転車で転倒し、指を怪我して、傷をつくってしまう。そのため仕事を休む。すると、おおらかな性格のコダマくんという男が、片手で不便であろうと、私の部屋に泊まり込む。わたしもコダマも、B級グルメというか、食べ物にうるさい。「孤独のグルメ」ならず、二人のやもめ男のグルメ話に花が咲く。自分は、食べ物に執着がないので、よくわからない。
発行所=〒566-0024大阪府摂津市通史正雀本町2-26-14。
紹介者=伊藤昭一
本誌は、六人の書き手による「伽」(昔話)、「士亅(男)「花」(女)、「史」は歴史や記録を意味したタイトルにしている歴史アンソロジーである。
【「痣」内藤万博】
伝奇小説のひとつであろう。源満仲の双子の子供を出生時に痣のあ抹殺し、一方を嫡子として育てた。それが美女丸である。部下の藤原仲光が元服するまで育てた。仲光には、美女丸と同じ年齢の幸寿丸がいた。そこから奇怪な因縁話に発展する。地元にあった伝説をヒントにしたもだといまとまっているまとまっている。
【「弟の憂鬱」朝倉昴】
徳川三代将軍の血筋を巡って、秀忠を父に持つ兄の竹千代は、三代将軍(家光)ととしての立場が濃厚であるが、次男の国千代は、血筋があるだけに、その地位を奪う可能性をもち危ぶまれる。世襲制度の宿命として、制度の維持のために、差待遇と待遇と、自死を命じられる国千代の憂鬱な心情を説得力のある現代風奈文章で描く。日本の歴史に多くみられる出来事であるが、抹殺される側からの視点は珍しい。
【「真金吹く」新井伊津】
日本に鉄鉱山の開発を伝えた異国から流れ来た者により教えられた。古代日本の時代を説話風に描く。
【「法均さまの庭」諸さやか】
瑞児の知可多は悲田院にいたが、宮中に連なる「法均さまの庭」で務める。体を鍛え、猪を獲り、宮中での生活をする。主な話の比重が、獣を捌く様子を具体描くところで、それなりに面白い。
【「織姫神伝説」眞住居明代】
青森県の雄大な民話「赤抻と黒神」を元にした神話だという。神との民衆の近しい関係の不思議物語。
【「お聖通さま」福田じゅん】
信州八ヶ岳の湖畔で機織りをする少女と甲斐の武田家の次男との出会いを描く。
ーー全体に文体が歴史ライトノベルという感じで、古風な文体から脱出するヒントになるものがある。
〒573-0087=大阪府枚方市香里園山之手町13-29、澤田方。
紹介者=北一郎。
【「サイレント」小路望海】
ITサービス企業に務める奈月の勤務中に母親から、いとこの匠が転落したという連絡を受ける。そのことと、社内の田部井という男が、課長ら仕事ぶりを批判される様子が記される。次の章では、また母親から匠が、集中治療室からでられたという連絡がくる。田部井は相変わらず課長に叱られている。このような形式が続く。登場人物が、奈月、母親、いとこの匠、早川課長、田部井社員、同僚の理央、吉松課長などがいる。短編で、こんな大勢が出てきてどんなテーマの話ができるのが、自分には難しすぎて理解できなかった。
【「白磁の壺」寺田ゆう子】
夫の経営する義母が白磁の壺を大切にしていた。妻のきり子は、義母への夫の想いに嫉妬して、その白磁の壺をわざと割ってしまう。しかし義母は怒らない。妻は、いつか深く謝ろうとおもっているが、機会を失う。そのうちに、義母は入浴中に自然死してしまう。――なるほど、短いのにテーマ性があって、悪くない。
【「ロッキー定食」長月州】
中日新聞にある300字小説公募用に書いたものという。他人に読ませようとして創作する意思は立派。もう少しの頑張りであろう。
【「生かされた子ども」松本順子】
太一という子供を囲む環境をめぐって、ミステリアスな事件を描く。小説を書き慣れてしまい、工夫しすぎてかえって下手になるようで、その見本のようなもの。話がわかりにくい。
【「陰画夜話―勝手に邪推」松蓉】
いろいろな話があるが、3番目の「鬼才犯科帳」の画家のカラヴァッチョの犯罪歴の話が一番面白かった。
【「ロマンンスの影」峰原すばる】
心臓疾患のある村上彰子は、コロナ禍で、会社をやめる。次に外国人のマルセルとの関係。女性と外国人との恋愛と投資話の絡み合いで、推理する余地の多い作品。物語として散漫で面白くは読めない。
【「殺意」霧関忍】
亜梨紗の情念の世界を描く。涼という人間が、女性か男性かはっきりしないまま話が進むが、何か隠しながら語りが進むような形式が、ここでは興味をそぐ。
その他、本号では、コミックの文章化をしたような作品も見受けられ、時代の変化を感じる。
発行所=〒460-0013名古屋市中区上前津1-4-7.松本方。
紹介者=「詩人回廊」北一郎
【「『東海文学』のことどもから(13)」三田村博史】
地域の有力同人誌であった「東海文学」にまつわる文壇人脈から、作家、編集者の関わり合いを記す。特に音楽家の坂本龍一の実父である編集者故人・坂本一亀に関する逸話、雑誌「作品」や「海燕」の編集者の寺田博しなどの、関係の経緯が記されている。文芸雑誌は、編集者でその個性が発揮される。であるから、本稿での文芸同人誌「東海文学」が、どうかかわって、どのような経緯で、文壇編集者との関連が絶たれた様子には、興味深い深いものがある。基本的に、商業文芸誌と文芸同人誌は、編集時の意図が異なるのでなるので、文学的であるいうことでの類似性を過大に評価するのは、適切でないと思う。そうした事情も読み取れるのでよい資料である。
【「闇を透かす」本興寺 更】
江戸から東京へ、移行したばかりの時代。あまり描かれない時期の時代小説である。時代考証もきちんとしている。武士の娘であるお紗登と、武士精神が抜けない父親の存在と、母親などとの家庭の調和を軸に、彼女に起きる出来事を描く。時代考証など、相当調べて調べあるのであろう。せっかくだから、この時代をうきぼりにして、若者向けに、転換期の姿がよく理解できるような解説書を書くような意図をもったシリーズにしてみたらどうであろう。プロデューサーが欲しいところだ。
【「バタフライ・ガーディン」西澤しのぶ】
弟は、小学生一年生で、私は六年生。町内会でアサギマダラという蝶のくるようなバタフライ・ガーディンを作る集いがあることを知る。その集いで知り合った茶髪の子が、大人から虐待をうけているようなのだ。そこで警察に電話して、詳しい事情がわかる。子供の視点で、アサギマダラ蝶の謎を啓蒙する意味のある短編。
【「おれたちの長い夏」朝岡明美】
昔、高校の吹奏楽部の仲間たちが集まって、思い出話をする。
---その他、「ずいひつ」欄が-文芸時評や高齢者の生活ぶりを記したのが、身に迫って興味深い。
発行所=〒477-0032東海市加木屋町11-318,三田村方、文芸中部の会。
紹介者=「詩人回廊」・北一郎。
朝日カルチャー小説教室(東京)の同人誌である。
【「三日月の下で」えひらかんじj】
都内の病院の院長をしている曽根哲夫は、病院にトラブルがあって、一時的に院長をしている。彼は、ここの問題解決課題と、自分自身の作家として小説刊行の準備中である。医師業をやめて作家に専念したい気持ちだが、なかなか難しい。その事情を具体的に、疑似私小説的に描かれており、面白く読める。同人雑誌らしい作品といえる。
【「水戸の桜」根場至】
商社マンであった聡の父親は、単身赴任の海外勤務が長く、息子とは会うことが少なく、帰郷してきた時には、よその小父さんでしかなかった。その関係が続いたまま、父親は日本の原発事業に関わる仕事につく。そして福島原発事故が起きる前に、寿命を終える。被災地の人の語る「原発は魔物。みんな犠牲者だ」という言葉に、父親もそうなのか、と思うが、これまでもっていた反感は消えない。ーーこいうこともあるのか、と家庭の事情がわかる。しかし小説にするための「水戸の桜」の逸話とは融合していない。それでも、印象深い話である。
【「腹が空いた」杉崇志】
源田光男という男の人生と家庭環境を描いたものらしい。彼の父親との人生の周辺と家庭環境に的を絞り描かれている。各部分はよくかけているが、それが全体として、それをどう受け止めればよいのか、わかりにくい。文章力はあるが、テーマと問題提起に工夫が必要に思試作品試作品のようでもある。
発行人=〒364-0035埼玉県北本市西高尾4-133,森方。
紹介者=伊藤昭一。
【「『巡礼』ソナタ・第2楽章」木村誠子】
北海道を詩情豊かに表現した旅行記。作者は、磨かれた文学的な手練の持ち主とわかる。肩に力を入れず、思うがままのように、北海道を巡礼し、アイヌ民族の精神を反映した物語が素晴らしく、詩篇を挟んで、道内に潜む地霊を呼び起していく。語りの手順が整理され、思わず引き込まれてしまう。読みごたえがある。同人誌ならではの秀作であろう。
【「エキストラ」高原あふち】
介護施設で働くあつみは、運悪くコロナに感染してしまう。そうすると、どのようなことが待ち受けているが、詳細に描かれる。そして、単なる体験的様式を超えて、人間関係やペットの関係が浮き彫りにされる。話の情感の起伏を表現するのが巧み。人情味あふれる気持ちの伝わる作品である。枚数調整力があれば、読み物雑誌に向いている。
【「明るいフジコの旅」渡谷邦】
フジ子は介護施設で暮らしている。その様子を描き、自分の人生終焉を、介護施設から抜け出して迎える話のようだ。物語の作り方が、ぎこちないが、人間のある状況を描くという精神に文学性がある。
【「鳩を捨てる」住田真理子】
母親が介護付きマンションに住んで、それまで住んでいたマンションが空き室になり、鳩が住み着いてしまう。母親は認知症で、連日、自分の金銭が盗まれるという妄想の電話を掛けてくる。その対応ぶりを細かく記す。話は一般的良くある出来事である。介護の段階は、まだ始まりの段階で、本筋はこれからであろう。文学性は濃くない。
【「面会時間(Visitng hours)」切塗よしを】
市役所に勤める50代の男が、脳溢血で倒れ、係長の職を離れ、外郭団体の駐輪場の管理人をする。そこで、あかりという、薄命的な女性に出会い、交際をする。彼女はがんを患いこの世を去る。良い雰囲気の短編小説である。
【「明け烏」奥畑信子】
結婚前の男女の結ばれるまでの話。それぞれの恋があるのであろう。
【「オーロラ」池誠】
現代埋蔵金物語。話の仕方が面白く、眉唾しながら読まされる。
【「高畠寛」年譜】
読書会のレジュメのために自筆年譜を記していた。1934年生まれ。自分は42年生まれだから、米軍空襲の記憶は自分より確かなのが、過去の作品に関して納得がいく。1982年「あるかいど」創設。2021年12月没。豊かな文学体験のひとであったようだ。寂しいものだ。
発行所=〒520-0232滋賀県大津市真野6丁目24-1、田中方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
【「れりぴー」吉岡辰児】
脳機能の病気で、肉体の動作が故障したことから、リハビリをしている人間の、意識の姿と心の動きを独白体で表現する。本誌の山下同人の独白体とは、全く質が異なる。本来の生まれながらの機能を、復活させることが前提になっているからだ。読み物的に可能性のある形式にしている。
【「不能者」山下定雄】
独自の独白体で、「私」の生活の中での実存的な意識の流れを表現する。そこには自己の人間性の普遍性を当然とする。人間の持つ肉体的な機能を普遍的にしているのは、哲学的基礎でもある。自意識的なその発想に懐疑的になりながら、カンナという彼女のことに、こだわりを持つ。話は「病院」という区切りをして、精神科らしき病院生活の心の一部始終の独白を行う。書き出して表現された、その人しかわからない意識と、心の動きを表現する技術の面白さに引き込まれる。既発表作品は、「季刊文科」誌86号で、長い批評文が掲載されたようだ。私の読解力に対応する人が日本にいるということらしい。商業誌の文芸雑誌でも、1作や2作は掲載したらどうであろう。文芸的な成果の一つであるはずである。
【「陰と陽の肉体(前半」」永田祐司)
都内に住み着いた3人の若者の出来事話。出だしから間もなくコロナにかかってしまい、その経緯が順序よく、だらだらというか、述べられているのが面白い。
【「神戸生活雑感―日本と台湾の文化比較」千佳】
台湾出身の作者が、「海馬文学会」のHPのなかで、ブログを持っている。今回は、そこから飛行機事故で亡くなった向田邦子についての思い入れを記す。当会にも帰化人の詩人がいてブログ「詩人回廊」で活躍している。
発行所=「海馬文学の会」。
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
25周年記念号。短歌、俳句、エッセイや手記など満載で、厚みのある雑誌になっている。
【「黄塵有情」財津公江】
昭和18年に、軍人の父親が、東條首相と意見が合わず、朝鮮半島を経て、満州に渡った一家の物語である。そこの娘さんの記憶が、12章に区切って、よく整理されて記録されている。蒙古への旅行記なども添えて、周辺地域での時代の雰囲気を伝えている。いまとなっては貴重なものである。執筆したのは、作者が49歳のころで、現在86歳で、残っていた原稿をそのまま発表したという。自分は満州時代を語る会のようになった知人たちと交流があったが、皆この世から去ってしまった。当時の歴史や軍人一家の運命に関心のある人には、読んでみることをお勧めする。政治と国民の関係を考える素材になると思う。特別資料として「暮らしのノートITO」に分割連載させてもらうことにした。ブログの運営者として、単に紹介するだけでなく、有意義な作品は、実際に読んでもらうことにしてきたい。
【「大阪西町奉行の頓死」椎葉乙虫】
時代小説で、奉行がキノコを食べて亡くなってしまう。そのことを巡って、騒動になる様子を描く。成行きに興味を引きながら、落ち着いた筆致でよませる。なかに立ち回りの剣劇のシーンなどを挟み、ほとんど職業作家並みの筆力を見せる。
【「山法師の白い花」(同作者)】年配の独身男が、日本史歴史の北条、源家の史跡を訪ねる旅で、彼より少し若い一人旅の独身女性と出会う。次第に親しくなり、老いらくの恋になるが、彼女は病死してしまう。頼朝と政子の愛情関係の史実にと絡めて、うまくまとめている。
【「月影の蒼き雫に染められて」佐木次郎】
伊豆急行に乗って下田に向かっていた作者は、70歳ですでに妻を亡くしている。そこに伊東駅から、不思議な雰囲気の女性と乗り合わせる。すると、女性は、作者の不思議な体験を反して欲しいという。そこで、若い時の夢想的な体験を、小説的でドラマチック語る。それが終わると、聞き手の女性はいつの間にか、姿をけしていた。若い時の話だから、それだけの独立した物語だから、現在と繋げる必要はないのだが、自己現在に繋がるような雰囲気が、同人誌作家らしいところ。
発行所=〒413-0235伊東市大室高原9-363、小山方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
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