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2022年10月24日 (月)

文芸同人誌「果樹園」第39号(豊橋市)

【「全家福」津之谷季】
昭和56年に政府の第一回中国残留孤児訪日肉親捜し調査が実施された。昭和58年の春、T市役所に中国から一通手紙が届く。役所では、小金井という職員が、中国語の後の読み書きが出来るというので、翻訳をさせられる。そこには、1945年満州にソ連軍が侵攻してきて、家族は殺害され、子供は逃げる最中に中国人家庭に引き取られる。そうした運命をもつ家族が来日する。そこで小金井は、臨時通訳をさせられて、その家族と交流も生まれる。その家族は、試しに日本に住んで、その後日本に永住する。資料と体験をもとにした話だが、中国人と日本人の歴史に挟まれた交流の姿の一つとして、さまざまな感慨を生む。

【「ボヘミアン」越生恵那】
 本号の文芸誌らしさを示した個性に満ちた文学的作品として読んだ。若い頃から、深い下案恵に関係にありながら、互いに別の相手と結婚し、その後も関係のあった健二。作中、――そんな健二と数十年のときを経て再会したのは、わたしからのアプローチだったーーとあるので、高齢になった「私」と健二の関係を軸に、自らの情念を語る。健二は、自分を好きなんだという確信。会えば関係を求める健二。夫を愛していると思いながら、健二と交際が切れない私の心情。―私は健二を媒介として異性に扱われることの特別感に目覚めてしまったのだ――どっぷり現実につかりながら、幸か不幸か私の感覚は、いっこうに現実味をおびることがない。それでも否応なく現実に引き据えられているーーなどなど、人が人を愛するという現象の中に浮かぶ私の様々な情念を表現し、愛をめぐる人間性を考えさせる含蓄に富んだ、秀作に読めた。非常に文学性に富んだ作品である。

【「母の久谷焼」早瀬ゆづみ】
 母が「よめり道具」(嫁入り道具)といっていた九谷焼が出てくる。お見合い相手であった夫のくれた指輪の小さく派手さのなさに愚痴をいい。昔の「ものない時代の」の思い出話などをよくする。当時は戦後の廃墟から抜け出したばかりで、円も1ドル360円から300円の時代。輸入品は舶来といって贅沢品であった。1ドル150円程度など、物のない時代の生活をすれば、なんでもない。
【「夢の重みー古墳ガール&古墳ボーイ」逢坂りん】
 古墳オタクの高齢者グループが村上遺跡や経ヶ峰一号墳を見学する。それなりに面白い。

【「200名城気まま歩き」小林眞里子】
 お城オタクの見物記。かなりハイレベルな知識が披露され、読んでも面白い。「鉄砲隊と騎馬隊が戦った長篠城」「徳川家康生誕の地、岡崎城へ」「山内一豊が大改修した掛川城」「信玄も落とせなかった高天神城」「巨大な丸馬出と空堀がある諏訪原城」「家康が逃げ帰った浜松城」という中身だしでの内容がわかりやすく記されている。自分も城好みなので、面白かった。

【「ニューヨーク ぶらっと旅」水上浩】
 トランプ以前のNY旅行記。コロナパンデミックの以前のアメリカの状況がわかる。書き慣れた文章で、読ませる。

【SFファンタジー「メビアとヒーリア」そらいくと】
 平凡なアイドル歌手の面白みのない歌が、奇妙に世界中で流行ってしまう。ジャーナリスとの語り手は、その秘密を追求する。すると何やら宇宙のパワーの影響であることがわかる話。飛躍が小さいが、それなりに地道な面白さがある。
その他、それぞれ短いエッセイ風のものが多くあり、それなりの感想が浮かぶが、省略させてもらう。
発行所=〒440-0896豊橋市萱町20,矢野方。「果樹園の会」。
紹介者=北一郎。

 

 

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