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2022年10月15日 (土)

文芸同人誌「星座盤」第16号(大阪府)

【「海辺に降る雪」苅田鳴】
 北海道でホームビルダー企業の営業をしている時田は、札幌で税理事務所を経営する仲村という男から、海辺近くに家を建てる注文をうける。海辺に庭のつながっているプライベートビーチに感じるようなところがよいという。時田は、ほかに町中のよい立地の選択を薦めるが、仲村は譲らない。そこで、注文に合う海辺に家を建てる。仲村の妻も夫の要求に従順であろうとしている。こうした新しい家への希望のなかで、注文主の仲村には、片脚を切断する病気に見舞われる。家のできあがりへの希望と、仲村の病の悪化が進む。仲村は両脚の切断までいく。それでも家を障害者用の設計変更をして、完成をよろこぶ。そして、仲村は死んでしまい、その後、家にひとり住んでいた夫人の火の不注意からか、火事になって全焼してしまう。変わった話で、家の新築と注文主の運命が反比例する経緯が、暗い運命の印象として残る。仲村とその妻、営業の時田の3人の人間的な内面描写に不足があるが、妙に重い印象を与える。話の素材と運びにかんしては、作家として黒岩重吾の初期の作風を思わせる。構成から雰囲気作りに作家的な手腕を感じさせる。それにしても、タイトルが、テーマを持たない漠然としたものからすると、本当はなにを表現したかったのか、作者の無自覚性が気になる。
【「犬と暮らしたい人」三上弥栄】
 タイトルそのままで、ペットに犬を飼いたい女性のお話。女性の人称も「誌音さん」、夫は「夫さん」という言い方である。タイトルも「誌音さん」を「人」と称する。町角での会話で、「私って、○○のひとなのー」というような言い方を耳にしたことがある。小説の文体に多様性が増してきたようだ。
【「真実」清水園】
 真実という名の女性のところに、かつて大学性時代のゼミで教授が教材につかっていた太宰治の作品のひとつ「人間失格」送られてくる。送り主は、同じゼミにいた猪野というゼミ仲間であった。彼女の存在は、スクールカースト的にみて、下位の目立たない存在であった。真実は、つまらないことをする猪野のことに侮蔑心をもって、同様のことを当時の学友に行っているのではないかと、あちこちに電話で問い合わせてみる。そのうちに猪野の知られざる実態が、友達仲間の話からわかってくる。そして、実際は、彼女は裕福な家柄の娘で、真実よりもカーストの上位の存在であったことに気づく。大学生活の階級的な差異を題材にし、面白く読ませる努力に感心した。
【「かりそめ」水無月うらら】
 スーパーのパン工房で働く男の「わたし」は、自転車で転倒し、指を怪我して、傷をつくってしまう。そのため仕事を休む。すると、おおらかな性格のコダマくんという男が、片手で不便であろうと、私の部屋に泊まり込む。わたしもコダマも、B級グルメというか、食べ物にうるさい。「孤独のグルメ」ならず、二人のやもめ男のグルメ話に花が咲く。自分は、食べ物に執着がないので、よくわからない。
発行所=〒566-0024大阪府摂津市通史正雀本町2-26-14。
紹介者=伊藤昭一

 

 

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