文芸同人誌「R&W」第32号(名古屋市)
【「サイレント」小路望海】
ITサービス企業に務める奈月の勤務中に母親から、いとこの匠が転落したという連絡を受ける。そのことと、社内の田部井という男が、課長ら仕事ぶりを批判される様子が記される。次の章では、また母親から匠が、集中治療室からでられたという連絡がくる。田部井は相変わらず課長に叱られている。このような形式が続く。登場人物が、奈月、母親、いとこの匠、早川課長、田部井社員、同僚の理央、吉松課長などがいる。短編で、こんな大勢が出てきてどんなテーマの話ができるのが、自分には難しすぎて理解できなかった。
【「白磁の壺」寺田ゆう子】
夫の経営する義母が白磁の壺を大切にしていた。妻のきり子は、義母への夫の想いに嫉妬して、その白磁の壺をわざと割ってしまう。しかし義母は怒らない。妻は、いつか深く謝ろうとおもっているが、機会を失う。そのうちに、義母は入浴中に自然死してしまう。――なるほど、短いのにテーマ性があって、悪くない。
【「ロッキー定食」長月州】
中日新聞にある300字小説公募用に書いたものという。他人に読ませようとして創作する意思は立派。もう少しの頑張りであろう。
【「生かされた子ども」松本順子】
太一という子供を囲む環境をめぐって、ミステリアスな事件を描く。小説を書き慣れてしまい、工夫しすぎてかえって下手になるようで、その見本のようなもの。話がわかりにくい。
【「陰画夜話―勝手に邪推」松蓉】
いろいろな話があるが、3番目の「鬼才犯科帳」の画家のカラヴァッチョの犯罪歴の話が一番面白かった。
【「ロマンンスの影」峰原すばる】
心臓疾患のある村上彰子は、コロナ禍で、会社をやめる。次に外国人のマルセルとの関係。女性と外国人との恋愛と投資話の絡み合いで、推理する余地の多い作品。物語として散漫で面白くは読めない。
【「殺意」霧関忍】
亜梨紗の情念の世界を描く。涼という人間が、女性か男性かはっきりしないまま話が進むが、何か隠しながら語りが進むような形式が、ここでは興味をそぐ。
その他、本号では、コミックの文章化をしたような作品も見受けられ、時代の変化を感じる。
発行所=〒460-0013名古屋市中区上前津1-4-7.松本方。
紹介者=「詩人回廊」北一郎
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