文芸同人誌「岩漿」30号(伊東市)
25周年記念号。短歌、俳句、エッセイや手記など満載で、厚みのある雑誌になっている。
【「黄塵有情」財津公江】
昭和18年に、軍人の父親が、東條首相と意見が合わず、朝鮮半島を経て、満州に渡った一家の物語である。そこの娘さんの記憶が、12章に区切って、よく整理されて記録されている。蒙古への旅行記なども添えて、周辺地域での時代の雰囲気を伝えている。いまとなっては貴重なものである。執筆したのは、作者が49歳のころで、現在86歳で、残っていた原稿をそのまま発表したという。自分は満州時代を語る会のようになった知人たちと交流があったが、皆この世から去ってしまった。当時の歴史や軍人一家の運命に関心のある人には、読んでみることをお勧めする。政治と国民の関係を考える素材になると思う。特別資料として「暮らしのノートITO」に分割連載させてもらうことにした。ブログの運営者として、単に紹介するだけでなく、有意義な作品は、実際に読んでもらうことにしてきたい。
【「大阪西町奉行の頓死」椎葉乙虫】
時代小説で、奉行がキノコを食べて亡くなってしまう。そのことを巡って、騒動になる様子を描く。成行きに興味を引きながら、落ち着いた筆致でよませる。なかに立ち回りの剣劇のシーンなどを挟み、ほとんど職業作家並みの筆力を見せる。
【「山法師の白い花」(同作者)】年配の独身男が、日本史歴史の北条、源家の史跡を訪ねる旅で、彼より少し若い一人旅の独身女性と出会う。次第に親しくなり、老いらくの恋になるが、彼女は病死してしまう。頼朝と政子の愛情関係の史実にと絡めて、うまくまとめている。
【「月影の蒼き雫に染められて」佐木次郎】
伊豆急行に乗って下田に向かっていた作者は、70歳ですでに妻を亡くしている。そこに伊東駅から、不思議な雰囲気の女性と乗り合わせる。すると、女性は、作者の不思議な体験を反して欲しいという。そこで、若い時の夢想的な体験を、小説的でドラマチック語る。それが終わると、聞き手の女性はいつの間にか、姿をけしていた。若い時の話だから、それだけの独立した物語だから、現在と繋げる必要はないのだが、自己現在に繋がるような雰囲気が、同人誌作家らしいところ。
発行所=〒413-0235伊東市大室高原9-363、小山方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
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