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2022年7月24日 (日)

文芸同人誌「海」(第Ⅱ期)第28号(太宰府市)

【「『アルチュール・ランボー小論』(2)労働する存在・沈黙する存在・反抗する存在」井本元義】
 詩人ランボーについては、自分は「地獄の季節」など、堀口大学の訳をいくつか読んでいるが、天才の詩精神を味わうだけで、彼の生活的生活の部分は、全く無知で、これを読んで、多くを教えられた。とくに、詩人の表現に関しての、詩人的生活活動と生活的な生活の営みとのバランスに姿を浮き彫りしている。日本の詩人、萩原朔太郎は、実家の資産に頼った詩人生活に、何か不足を感じたらしく、「生活がしたい、生活がしたい」と述懐している。我々が驚嘆する天才的な言葉への閃きも、生活的環境から生まれることを示している。とくに、本編では詩作をやめたとされる、アデンやハラル時代に、沢山のレターや光を放つ断片を記していたことがわかる。井本氏の精力的な評論は、物語性に富み、読者をランボーの精神と実生活に否応なく誘う。文学的詩精神の神髄を知るための優れた教材にもなる。
【「幻聴」高岡啓次郎】
 ベテラン弁護士としての実績をもつ男が、病気で亡くなった妻の声で、妻のぐちと恨みののようなものを聴くという話。小説を書き慣れた筆遣いで、安心して読ませる。作者も安心して書いている。同人誌らしい書きたいものを書いた良さがある。
【「灘」有森信二】
 ヒサという、高齢者の家族の島国での話。娘が病気で苦しむ様相を、主体に状況を語る。昭和時代の島暮らしの生活の記録なのか。独立体の小説にしては、周囲との関係がわからない。感情移入させる巧さが印象的。
【「ある恋愛の顛末」牧草泉】
 恋愛論を並べながらナンパ話を展開する。スタンダールやバルザック的な描写論を超えて評論を交えているのが現代的なのか。音楽鑑賞と女性の性格を結び付けて面白く読ませる。
【「幼年期―郷原直人の場合・其の壱 じっけん実験-前編―」中村太郎】
 敗戦後の台湾から戦後の引揚者であったらしい直太の子供時代の話。文体に勢いがある。
【「虚空山病院」井本元義】
 冒頭に、埴谷雄高の「死霊」の出だしを使用して、読む者の意表をつく。その内容は、精神病院の2代の院長をめぐる女性との愛の関係を濃密に語る。構成もゆるぎなく、陰鬱さの中に人間のロマン性の美意識を描いた力作である。作者の才能の豊かさを堪能できる。
 発行人=〒818-0101大宰府市観世音寺1-15-33(松本方)。
 紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

 

 

 

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コメント

いつもご懇切な評をいただき、ありがとうございます。これを励みに、頑張りたいと思います。
暑さに向かいます。どうぞ、ご自愛ください。

投稿: 有森信二 | 2022年7月26日 (火) 14時25分

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