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2022年7月15日 (金)

文芸同人誌「奏」第44号2022夏(静岡市)

 巻頭詩に柴崎聡の「耳」に関する出来事が、自分の耳に起きたことと関連があり、興味を持った。高齢者に複雑な形の難聴がひろまっているようだ。
【「丸岡明『贋きりすと』論―原民喜の残影」勝呂奏】
 本論によると原民喜は、昭和26年3月13日、広島の原爆を小説「夏の花」(昭和22年6月「三田文学」)に書いた。その後、住まいに近い鉄道・中央線の吉祥寺と西荻窪間の線路で自殺をした。45歳であったという。作品は読んだことはないながら、そうした経緯は、知っていた。当然、丸山明「贋きりすと」の存在は知らなかった。この評論は、原民喜の友人でもあったらし丸山明が、原民喜をモデルにして書いた「贋きりすと」の解説と、原民喜の被爆体験と、人間関係を解説したもの。実に、感銘深い傑作である。被爆後の原の人間関係を読むと「人間のもつ特性」としての愛するこころ、同時に客観的な自意識の存在をしる。自分は、普通の人生を送ってきたものだが、高齢で孤独である。本論を読むと、原の被ばく者としての孤独。その極限的な体験を記憶から排除できない。丸山明の「贋きりすと」作品では、おそらく原の被ばく者としての極限的孤独をよく表現しているのであろう。十字架に磔になったキリストの発想には、多くの極限の孤独者の想いが生み出したのか、という啓示を受けた。神がいようがいまいが、自分には関係がない。把握不能な宇宙的世界のなかに存在する塵のような自己存在の認識を新たにした。
【「イギリス・・ロマン派の詩を読む②=ブレイク『虎』」田代尚路】
 ブレイクと言えば、神秘ロマン派の詩人で、海外では著名らしい。大江健三郎もこっているようだ。自分は、高校生のころ「エラリ―クイン・ミステリーマガジン」で、 ストックトン 『 女 か、 虎 か 』 という、結末のわからない「 リドル ・ ストーリー 」 という形式の小説を読んで、多少勉強した覚えがある。そのことを覚えている自分の記憶にのこっているのが不思議だ。00
【小説の中の絵画(第16回)「カズオ・イシグロ『浮世の画家』-戦争画の不在」中村ともえ】
 戦争中に軍部の圧力と大衆意識への迎合から、戦意高揚の絵を描いた画家。戦後、それを隠ぺいでもしたのであろうか。人間社会は、あたかも小魚に群れのように全体の流れに従って動く。芸術家もそこから抜け出すことが出来ないことが多い。この画家の過去作品を作者がどのように表現しているかを、検証しているものらしい。自分は読んでいないので、そうですか、という感じ。
【「島尾敏雄『われ深きふちより』ノート――<病院記(入院中)>に見る祈り」勝呂奏】
 このような作品は、自己表現と作家業との有機的な繋がりがあるため、その表現力の有効性で、世間に広まったものであろう。その記憶力と、話の巧さに驚嘆するものがある。自分の高校生時代、家族は、家業の担い手の母親が、いわゆる統合失調症とされた。5人兄弟の長男の自分は、父親に協力して、家庭の維持につとめた。一人の精神の変調は、他の家族に伝染するのである。そのため、落ち着かない忙しい生活であった。父親の意志で、それに協力したことで、晩年は全員が、病院生活から縁が切れて普通の生活が出来た。それが最大の自己満足である。それにつて何かを書こうという気持ちにはならない。このような、場所にタダで書くこと自体、考えが及ばなかった。とんだサービスである。そのなかで、マーケティングの世界で、フリライターとして生活出来たのは、生活上で便利であった。このあとに触れる「正宗白鳥」に仕事ぶりを読んで、全くの共通点があるのに驚いた。
【「正宗白鳥 仕事の極意――<文壇遊泳術に学ぶ(4)」佐藤ゆかり】
 純文学作家で、ありながらすべて金のために売文精神で、それを全うしたのは、珍しいでことであろう。自分はフリライターで、収入のためにさまざまな依頼をこなしてきた。職業は、編集者にませたので、経済評論家、ジャーナリスト、作家などさまざまであった。PR誌、機関誌、協会新聞紙など、つねに4か5組織の発行物を受け持ってきた。人脈と質の良さ、取材力などで、信用をえると、各業界から依頼がくる。様々な業界の知識がこうした奇妙な紹介記事を続けさせるのかも知れない。
発行所=420-0881静岡市葵区北安東1-9-12、勝呂方。
紹介者=伊藤昭一。

 

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