« 文芸同人誌「澪」第19号(横浜市) | トップページ | 文芸同人誌「季刊遠近」第79号(横浜市) »

2022年5月12日 (木)

文芸同人誌「文芸中部」第119号(東海市)

【「クローゼットの中の家族」北川朱美】
 ある日、井口直子が家に帰ると5日前からいなくなった飼い猫の死体が、ダンポール箱に新聞紙にくるまれて、送られてきた。中に手紙が入っていて、道端で車に轢かれて死んでいたのを見た人がいて、首輪に書いてあった所番地を見て、送ってくれたのだ。その後も、直子のペットロスの気持を慰める手紙が来る。見張られているようなのだ。スリリングな出だしなので、大衆的な読み物かと思ったが、必ずしもそうでなく、ストーリーの設定など、一筋縄ではいかない話になっている。この猫の事故死の話には落ちがあって、30年前に子供が事故死した経験のある老人が、ストーカー的なことをしていた、というもの。それに付随して、その老人の悲しみを純文学的に描く。いつまでも、こだわりを持ちつつ生きた老人の姿が印象に残った。
【「ベルリン夢二式」西澤しのぶ】
 竹久夢二が欧州で何をしていたのか、謎めいた部分を小説している。なるほど、そういうこともあったかもーーと思わせる・
【「二色の瞳」大西真紀】
 母親から、亡くなった祖父の飼っていたツキという犬を引き取る羽目になった話。真面目にその後のことを語っている。題材はいいが、語りに面白さが少ない。そこが残念。
【「曼珠沙華」朝岡明美】
 梶浦亮介という男の身の上話。自分は純文学通でないので、これしか感想が出ない。通俗小説なら、人物が立ち上がらないというところだろうが、それも本作に当てるのは的外れのような気もする。
【音楽を聴くー88―バッハ「ゴールドベルク変奏曲」堀井清】
 音楽の話のほかに、最新の文学動向についての感想がある。読者としてついていけない側面を指摘する。全く同感であるが、もともと個人の趣味の多様性から、仕方がないと思う。
【「東海文学のことどもから(12)」三田村博史】
 これが一番面白い。「東海文学」が同人誌の枠を超えて中央文壇と接近していた時代の事情がよくわかる。また、作家・吉村萬壱氏らしき人の地域的親密さ、現在活躍の同人の過去など、なるほどと理解する絵解きにもなっている。
【「千の五年」広田圭】
 時代小説で、江戸にコロリ(コレラ)が流行り、治安が乱れて、打ちこわしの「いいじゃないか」連を装って、米問屋からコメを盗む連中が連続して跋扈する。それを与力の山の井が解決する話。話にスピード感があり、娯楽小説として良くまとまっている。良い出来だと思う。
【「花泥棒」堀井清】
 老人の余生を描いて、その心理を浮き彫りにする。リアルさよりも話の流れと問題提起で、考えさせる作品。相変わらず巧い短編である。俗にいえば、暇つぶしに困った老人が、似たような境遇の友人から万引きをしようと誘われる話。人が生きるには、何らかの欲望を持つことが必要で、そのひとつに万引きの緊張感への快感があるということか。
発行所=〒477-0032東海市加木屋町泡池11-318。文芸中部の会。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

|

« 文芸同人誌「澪」第19号(横浜市) | トップページ | 文芸同人誌「季刊遠近」第79号(横浜市) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 文芸同人誌「澪」第19号(横浜市) | トップページ | 文芸同人誌「季刊遠近」第79号(横浜市) »