文芸同人誌「果樹園」第38号(豊橋市)
【「香佑」そら いくと】
本作は寛永16年の時代に、外国宣教師か、その一行の誰かの白人系の男を父に日本人の母親から生まれたらしい香佑(こうゆう)という女性の運命を、島原キリシタン天草騒乱に巻込まれるという設定の時代小説ある。末尾に、「後記」として、マニエール・ポンセというペンネームで日本人の同人が書いていたものを、作者が執筆できなくなったので、そら いくと氏が、継承執筆したものとある。如何にも、同人雑誌ならでは発想の作品である。その手腕と、努力はたいしたものである。出来としては、当然主人公の心理が冷静に示されており、良く書いたものと感心した。強いて言えば、物語としての流れの変化の仕方に物足りない気がした。読者の感情移入がずれてしまう感じ。史実の資料をこなすのが精いっぱいなのであろうか。もう一人、物語をつくるストーリー担当が必要な感じ。いれば、参加してもらったどうだろうか。
【「志保さんの店」早瀬ゆづみ】
志保さんという人の新聞投稿記事を読んで、彼女に会いたくなった話。タイトルの女性と作者の生活環境の話で認知症の叔母の世話など、出来事が並べ書きされる。あまり関係のない繋がりに、何が問題なのか首を傾げるようなところがある。作者には意味が深いのであろうと、推察した。
【中国歴史ファンタジー小説「長安一片の孚(まこと)」津之谷季】
中国の話で、お笑い演芸場で仕事をする芸人、劉竹犬は漫談師のようなことをしていたが、劇場での笑いがあまりとれず、行き詰まっていた。そこで相棒を見つけて漫才のような芸をしてみようと考える。作品中では、中国では、日本のようなボケとツッコミの応酬をする形式がなかったそうだ。話は面白く、感情移入して読んだ。中国を舞台にした日本人作者による創作だそうだが、中国小説にありそうな、感覚の自然さに驚かされる。こうした活動で感じるのは、日本語の世界での普及の弱さである。幸いにもコミックファンが世界に増えて、その糸口が見えてきている。中国人の小説が増えることは、漢字の近さから馴染み安いかもしれない。文学愛好家層の拡大で、両国の市場拡大につながればよいのだが…。韓国などは、反日の国だそうだが、それだけ関心が高いということであろう。なんだかんだ言っても、ビジネス市場の拡大に寄与しているのであろう。
【「200名城ゆっくりあるき」小林真理子】
お城を愛好家が、駿府城、郡上八幡城、吉田城などの見学記である。楽しそうに蘊蓄を傾ける様子が伝わってくる。
【小説「地上の座談会」水上浩】
作者と梵天、帝釈天、日天、月天の天上人が、文学論を展開する。考えたものであるな、と感心させられた。面白い。
発行所=〒440-0896豊橋市萱町20、矢野方、果樹園の会。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。
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