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2022年3月 2日 (水)

文芸同人誌「季刊遠近」第78号(横浜市)

【「甘いゼリー(その一)」山田美枝子】
 介護生活の記録である。冒頭に「末期がんの88才の老母を半年余り自宅で世話をし、あの世に送り出したあと、今また84歳のボケ老人になった姑を世話しているというのは、他人は美談とみるが、私の嫁としての虚栄心をくすぐる仕事でもある。」と記す。(注・会話の中での「ボケ老人」表現は良いが、物語の中では、「認知症」が適当であろう)――このことによって、作者が、日本の家族制度の因習の世界がまだ存在することを示していて、興味深い。高齢者の介護を美談とみる社社会のなかにいるのである。この作品は、介護生活をしている人たちにとって、共感と孤立感から救ってくれる良い読み物であろう。自分も似たような境遇にあったので、その当時を想いだした。続編を期待したい。
【「強きを助け、弱きをくじく」逆井三三】
 皮肉にも、社会の本質を記したタイトルである。足利時代の権力者である義満の事情を分かり易く語る歴史小説である。義満の人柄などを良く表現している。武士の権力があった当時から、天皇は権威者と権力者として、政治力を持っていたことに注目すべきであろう。義満は明の皇帝から日本国王に認知されて、それまで武家の頭領の征夷大将軍が、日本の権力者として、天皇をしのぐ権力者の地位を築くきっかけとなった側面がある。
 その他の作品もそれぞれの良さを発揮しているが、新味にかけるところが物足りない。なかに、情緒不安定な人が語り部になるという設定の小説があったが、その視点では、語っていることの信頼性に弱点がある。小説は、どんなに不自然なことであっても、そう書いたら無条件にそうであるとする仕組みを持つので、考えて欲しいところだ。
事務局=225-0005横浜市青葉区荏子田2-34-7、江間方。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。


 

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