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2022年3月26日 (土)

文学の源とポストモダン

 どこかの本に書かれている同人雑誌的な文学論に現代に読めるが、じつは昭和初期の日本が独立国として、世界の列強に対抗していた時代の文学論である。ある意味で、今の同人誌作家の精神論に載っていそうな話である。時代遅れという感じがする部分はこうした面があるかからかも知れない。 
-- そこで、所謂(いわゆる)小説を書くには、小手先の技巧なんかは、何にも要らないのだ。短編なんかを一寸うまく纏める技巧、そんなものは、これから何の役にも立たない。
 これほど、文芸が発達して来て、小説が盛んに読まれている以上、相当に文学の才のある人は、誰でもうまく書けると思う。
 それなら、何処で勝つかと云えば、技巧の中に匿された人生観、哲学で、自分を見せて行くより、しようがないと思う。
 だから、本当の小説家になるのに、一番困る人は、二十二、三歳で、相当にうまい短編が書ける人だ。だから、小説家たらんとする者は、そういうような一寸した文芸上の遊戯に耽ることをよして、専心に、人生に対する修行を励むべきではないか。
 それから、小説を書くのに、一番大切なのは、生活をしたということである。実際、古語にも「可愛い子には旅をさせろ」というが、それと同じく、小説を書くには、若い時代の苦労が第一なのだ。金のある人などは、真に生活の苦労を知ることは出来ないかも知れないが、兎に角、若い人は、つぶさに人生の辛酸を嘗めることが大切である。《菊池寛の近代文学精神とポストモダンー30-(3章)文学の源

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2022年3月21日 (月)

文芸同人誌「果樹園」第38号(豊橋市)

【「香佑」そら いくと】
 本作は寛永16年の時代に、外国宣教師か、その一行の誰かの白人系の男を父に日本人の母親から生まれたらしい香佑(こうゆう)という女性の運命を、島原キリシタン天草騒乱に巻込まれるという設定の時代小説ある。末尾に、「後記」として、マニエール・ポンセというペンネームで日本人の同人が書いていたものを、作者が執筆できなくなったので、そら いくと氏が、継承執筆したものとある。如何にも、同人雑誌ならでは発想の作品である。その手腕と、努力はたいしたものである。出来としては、当然主人公の心理が冷静に示されており、良く書いたものと感心した。強いて言えば、物語としての流れの変化の仕方に物足りない気がした。読者の感情移入がずれてしまう感じ。史実の資料をこなすのが精いっぱいなのであろうか。もう一人、物語をつくるストーリー担当が必要な感じ。いれば、参加してもらったどうだろうか。
【「志保さんの店」早瀬ゆづみ】
 志保さんという人の新聞投稿記事を読んで、彼女に会いたくなった話。タイトルの女性と作者の生活環境の話で認知症の叔母の世話など、出来事が並べ書きされる。あまり関係のない繋がりに、何が問題なのか首を傾げるようなところがある。作者には意味が深いのであろうと、推察した。
【中国歴史ファンタジー小説「長安一片の孚(まこと)」津之谷季】
 中国の話で、お笑い演芸場で仕事をする芸人、劉竹犬は漫談師のようなことをしていたが、劇場での笑いがあまりとれず、行き詰まっていた。そこで相棒を見つけて漫才のような芸をしてみようと考える。作品中では、中国では、日本のようなボケとツッコミの応酬をする形式がなかったそうだ。話は面白く、感情移入して読んだ。中国を舞台にした日本人作者による創作だそうだが、中国小説にありそうな、感覚の自然さに驚かされる。こうした活動で感じるのは、日本語の世界での普及の弱さである。幸いにもコミックファンが世界に増えて、その糸口が見えてきている。中国人の小説が増えることは、漢字の近さから馴染み安いかもしれない。文学愛好家層の拡大で、両国の市場拡大につながればよいのだが…。韓国などは、反日の国だそうだが、それだけ関心が高いということであろう。なんだかんだ言っても、ビジネス市場の拡大に寄与しているのであろう。
【「200名城ゆっくりあるき」小林真理子】
 お城を愛好家が、駿府城、郡上八幡城、吉田城などの見学記である。楽しそうに蘊蓄を傾ける様子が伝わってくる。
【小説「地上の座談会」水上浩】
 作者と梵天、帝釈天、日天、月天の天上人が、文学論を展開する。考えたものであるな、と感心させられた。面白い。
発行所=〒440-0896豊橋市萱町20、矢野方、果樹園の会。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

 

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2022年3月12日 (土)

文芸同人誌「私人」第106号(東京)

【「小諸なる」根場至】
 全体に小説としてよく書けている。小諸にある地元の銘酒「古城」を醸造する藪塚酒造という造り酒屋がある。分家として、それを販売する藪塚酒店がある。中には角打ちを嗜むためのカウンターもある。古風な雰囲気を保つ古老の経営者には娘しかいない。そこに婿を迎える話がつづく。小説を書きなれているので、読みやすい。ただ楽々と書いているだけの気軽さもある。何か、縛りをもって書いた方が、作者にとって工夫する楽しみがあるのではないか。娯楽小説にしてはつまらな過ぎる。純文学にしては深みがない。ただ、読みやすさが取り柄である。
【「海辺のカフェ」えひらかんじ】
 これも全体に良く書けている。これは、東京で勤務医をしていた曽根哲夫が、激務で体を壊して入院する。それをきっかけに、勤務医をやめる。結婚して2児の過程をもつ。職探しをしていると、小さな医院を開業していた父親が病死する。さらに妻も急死する。そんな出来事を縫って、哲夫の生活ぶりを描く。話に筋があってつまらなくはないが、それほど面白くもない。筋立ての周辺事も必然性が薄く、途中から期待をしないで読むので、それなりに面白いが、趣味小説につき合う感じがして、感想もわかない。まあ、いいんじゃないですか、という感じ。
【「敗戦国の残像」尾高修也】
 これが一番読みごたえがあって、興味深かった。昭和の戦争の時代に生まれ、その後の昭和を生きてきた。昭和12年生まれ、とういうから私より5歳先輩でアある。日本の敗戦後の米国追従の歴史は、度を超したものという実感を持っていることに、同感した。同じ視点がの日本人が存在することに驚いた。米国がイランと石油などエネルギー関連で取引のある企業を対象とした「イラン制裁強化法」が成立したのを受け、日本側に同油田からの撤退を指示、中国にその権益が渡った。フセインクエート進行には、日本人一人当たり3万円の税金使用。その金でアメリカは湾岸戦争をした。イラク戦争のフセイン大量兵器保持のウソの情報をまず認め、参戦。それでも小泉首相の判断に国民は文句を言わない。その他、沖縄問題でも、基地問題整理し独立国的構想を打ち出すと、失脚させた。いまでも、鳩山氏をアホ扱いするアホな国民。わけがわからない。その根底には「日米合同委員会」という超法規、超憲法の縛りがあることは、見当がつくが、その詳細は非公開である。ウクライナ問題でも日本は悩む余地はない。米国の指示どおりにするしかないのだ。
発行所=朝日カルチャーセンター。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

 

 

 

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2022年3月 5日 (土)

文芸時評・2月(東京新聞2月28日・夕=伊藤貴氏氏

  家族をめぐる2作品「新しさと深さを具なええ」
 《対象作品》=宇佐美りん「くるまの娘」(「文芸」春号)/「99のブループリント」砂川文次(「文學界」3月号)。


☆北一郎・四の五の言う=2作品に絞ったところが、評論としての実態をなしている。題材は若者にとっての「家族」。同人誌でも高齢者の家族物語が多い。比較できるのか。読まないことには始まらないのだが。おまけに、「WEB文芸」に、単行本の解説を平野啓一郎がしているが、それが読める。《参照*WEB文芸

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2022年3月 2日 (水)

文芸同人誌「季刊遠近」第78号(横浜市)

【「甘いゼリー(その一)」山田美枝子】
 介護生活の記録である。冒頭に「末期がんの88才の老母を半年余り自宅で世話をし、あの世に送り出したあと、今また84歳のボケ老人になった姑を世話しているというのは、他人は美談とみるが、私の嫁としての虚栄心をくすぐる仕事でもある。」と記す。(注・会話の中での「ボケ老人」表現は良いが、物語の中では、「認知症」が適当であろう)――このことによって、作者が、日本の家族制度の因習の世界がまだ存在することを示していて、興味深い。高齢者の介護を美談とみる社社会のなかにいるのである。この作品は、介護生活をしている人たちにとって、共感と孤立感から救ってくれる良い読み物であろう。自分も似たような境遇にあったので、その当時を想いだした。続編を期待したい。
【「強きを助け、弱きをくじく」逆井三三】
 皮肉にも、社会の本質を記したタイトルである。足利時代の権力者である義満の事情を分かり易く語る歴史小説である。義満の人柄などを良く表現している。武士の権力があった当時から、天皇は権威者と権力者として、政治力を持っていたことに注目すべきであろう。義満は明の皇帝から日本国王に認知されて、それまで武家の頭領の征夷大将軍が、日本の権力者として、天皇をしのぐ権力者の地位を築くきっかけとなった側面がある。
 その他の作品もそれぞれの良さを発揮しているが、新味にかけるところが物足りない。なかに、情緒不安定な人が語り部になるという設定の小説があったが、その視点では、語っていることの信頼性に弱点がある。小説は、どんなに不自然なことであっても、そう書いたら無条件にそうであるとする仕組みを持つので、考えて欲しいところだ。
事務局=225-0005横浜市青葉区荏子田2-34-7、江間方。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。


 

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