文芸同人誌「りりっく」第37号(川口市)
川口市文化センター教室の雑誌である。自分の記憶では、東京の尾久という街のあるところに行くには、一旦東京を出て川口からバスに乗るのであった。最近は、マンション建設がさかんで住宅地として人気のある町だとか、ニュースになっていた。鋳物工場の町が、ハイセンスな魅力のある町になったようだ。
【「2020-⁻思い出すままにー」野上志乃】
2020年に起きた出来事を、そのまま記録したもの。新型コロナウイルスの流行る直前からのもので、まず、北陸の金沢「兼六園」に旅行。中国語が飛び交っていたというから、まだウイルスの蔓延していない時期だ。白川郷にも行ったそうだ。その年が暮れてから、新型コロナウイルスが武漢からでたというニュースが流れはじめた。マスクは、品切れになったので、ガーゼで手作りする。三月には東京オリパラが延期される。5月には、咽喉に違和感が出て、病院で診断してもらう。しかし、異常なしで、神経性のものとわかる。そんな風な話で、そういえばそうだったな、と思いながら読んだ。同時に、世界は危険に満ちているのだから、このように生活できることは幸せなのだと実感させられた。
【「15年目の出会い」大江うた】
中学校の美術教師になって1年目の青山咲良に手紙がとどく。以前は、母であった女性からであった。彼女は咲良を産んだあとに、出奔し別の男性と暮らしていたらしい。その母親が、今はがんに侵され入院。先のない境遇にあるという。そして、今は夫と別れて、女手ひとつで育てた息子が、少年院から出所してくるので、腹違いの弟として、面倒を見て欲しいというのだ。弟は、石黒樹といって、普段は真面目だが、親しい友人が不良グループに襲われ亡くなってしまったのだという。そこで石黒は、その不良グループに、友人の仇討にでて、怪我をさせてしまった。そのため少年院に入れられていたのだという。そこで、咲良は石黒と同居するようになるが、素直で優しい少年であった。いろいろな出来事があるが、石黒という弟の自己反省や素直さがわかり、ほのぼのとした雰囲気で終わる。書いて楽しいのであろう。そのせいか、読んでも気分が良くなる物語である。
その他、さりげない日常を大切にした、エッセイと小説が自由な筆使いで表現されている。女性の教室らしく、井戸端会的なことを描く手腕が良く発揮されている。このように素直で純粋な表現に出会うと、些細な出来事が、些細でないことを身に染みて感じる。
発行所=〒川口市川口3―3、リプレ川口2番街4F,よみうり文化センター川口。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。
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