文藝同人誌「R&W」第30号(名古屋市)
本誌は、小説教室のグループによる同人誌であったが、師の退官により、残った仲間による同人誌となったという。小説教室の同人誌であれば、先生に読んでもらい、評されるのが、第一の目標であろうから、自分などがとやかく言っても仕方がないという想いがあった。ところが、故人となった渡辺勝彦氏が編集を担当していた時代、ちょうど3号だったと記憶している。本サイトで、渡辺氏の消息を知ったので、住所を教えて欲しいという人が2、3人いて、そこで人柄などを聞いて記憶を強くし、以後気を付けて読むようになった。しかし、その後、亡くなったと知って、なんとなく意欲が薄れた。紹介対象にするのは久しぶりである。
【「たどりみち」小路望海】
穂純という女性の生活を描いた風俗小説である。独身で、中尾という愛人と交際している。結婚歴があり、ユーリという19歳の息子がいるが、連絡が途切れている。スマフォを手放さず、そのネット情報社会にひたっている。そこからユーリの生活ぶりをリサーチして知ることができる。ついでに中尾の浮気もわかる。そこから、中尾と相談したて、ユーリにリアルに会いに行ってみる。すると、「ゆうり」という名前の若者で、彼は、ユーリと別人とわかる。書き方、やや粗雑だが、現代社会とネット利用仕方の手慣れた関係や、人生観がにじみ出て、なかなか読ませる。ジャンルを決めて書けば、何かを表現できる可能性の才気を感じさせる。
【「実践的ボランティア選択」長月州】
ボランティアの団体を作りたい鶴瀬亮一は、ボランティアセンターを初めて訪れる。そこで、概略を覚えると、-あなたのうらみを晴らしますーというのを作りたくなる。しかし、それでは、いかにも体裁が良くないので、「気持ち晴らし」という触れ込みのネットHPを立ち上げる話。すると、さまざまな恨みを持った人からの相談が来る。設定自体が小説的で、ドタバタするのが判って、先が楽しみなものになっている。読み物の本質は、1に題材、2にストーリー、3、4がなくで、5に文章とされるので、この調子で頑張ってみて欲しい。
【「最愛の人」松本順子】
夫婦の物語であり、家族の物語である。美也子が、朝目覚めて、悲しみでなく。夫と喫茶店を経営する話から、30年前の結婚にいたるまでの想い出話になる。なにを伝えたいのか、興味が分散する。痕に出来事を紹介しにくいような構成。純文学的な作風で、そのわりには、奥行きがないような気がする。典型的な同人雑誌的小説。悪くはないが、それほど良くもない。
発行所=〒460-0013名古屋市中区上前津1-4-7、松本方。
紹介者=「詩人回廊」・北一郎。
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