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2022年1月10日 (月)

文芸同人誌「海」第Ⅱ期(第27号)(太宰府市)

【「黄色い朝」神宮吉昌】
 唇の血管が腫瘍になり肥大する「海綿状血管腫」、別名「動脈畸形」という病気になった男性の闘病記である。ネットなどで調べた結果、彼の場合、先天的に血管が左側がだけ血液がスムーズに流れない畸形であったものが、30代後半になって血の流れが滞り、徐々に晴れていったーーということから唇周辺が腫れ上がってしまうのであるという。発生場所は、心臓であったりすることもあるらしいが、彼の場合、唇というのも、顔の表情に影響するので厄介である。治療してもなかなか治りにくいものらしい。小説化されているが、症状の改善に治療先を、変えてゆく過程は、ほとんど事実に沿ったものと、推察できる。落ち着いた筆致で的確にその過程が描かれている。快癒に近い情況になるまでが、冷静に記されている。不可解な難病の人たちにぜひ読んでもらいたい作者の姿勢である。自分もストレスによる複雑な神経症を患い〈思い込みとされたが〉、どこも病気でないと、2,、3の大病院で云われた。困っている時、ある東大の物療内科の医師に出合って、改善することが出来た。その医師も、ストレス神経症とは限らない。いろいろやった治療のどれかが役立って、改善しただけという。もし、正確に知りたければ、九大の専門化に調べてもらったらー、と言われた。いや、ここまで軽快すれば原因など、どうでも良いですーと言ったものだ。その時に、余談で、脊柱に生まれつきの欠落部があると指摘され、後年での影響を予測された。今になって、それが的中しているようだ。
【「織坂幸治追悼小特集」同人各氏】
 織坂氏の過去の作品の「現代教育考」が掲載されている。当時の社会に対する批判と反抗精神がにじみ出ている。戦争に敗北した結果の日本人精神の脳への影響と、米国への批判精神も健全なものである。
【「真凛の世界」高岡啓次郎】
 友人の女性から、突然どこかに一緒に行ってほしいと頼まれる。理由の説明のないまま、いわれた通りに旅に同行する。道中、その女性の謎の動機にせまる心理を描く。起承転結の小説の法則が守られているのでよい感じ。読み進むのが楽しい。この作品の読みどころは、男が女の事情を推理するところ。話の種類や設定が異なっても、同じパターンをまもることが大切。話のなりゆきで、転と結びに困ることが出てくる。そこを閃きでのりこえるところが、作者の個性になるのでは。
【「コンパクトタウン」河村道行】
 人口減少に伴い、過疎化が進む自治体では、住民が一カ所に集まって住んでもらったほうが、インフラなどの簡約化につながる。その意味では、現代進行形の問題提起になっている。話は過疎地に散らばっている住民に、便利なところに移住するのを説得するお役人の話らしい。舞台設定は充分で、あとは人物像に深みみをあたえること。ある程度は、それもできていて、面白かった。
発行所=「海」編集委員会。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

 

 

 

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コメント

『海』第27号作品についての懇切な評をいただき、ありがとうございます。作者は勿論、『海』の編集を続ける上で、何よりの励みとなります。心から感謝申し上げます。
2022.1.10 『海』第二期 有森信二

投稿: 有森信二 | 2022年1月10日 (月) 21時08分

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