文芸同人誌「星座盤」Vol.15(大阪府)
【「同舟」水無月うらら】
マッサージ店に就職した女性の仕事ぶりを事細かく、丹念に描く。体験談のようで、ここまで細部にわたると、文学作品になる。面白いし、その筆力は大したものである。揉んでいる最中の客の凝った肉体が、一つの自然物のように迫ってくるし、深く分け入るようなところを感じさせる。風俗小説ではあるが、それを超えている。今は亡き伊藤桂一氏は、「物事を細かく書き抜くと面白く、文学的になる」と語っていたのを思い出す。締めの切れ味もよい。
【「焼き飯」清水園】
客の入らない中華店のようであるが、語り手になる学生がはいってみると、婆さんが焼き飯を作ってくれる。それが、定番で2階では賭場を開いているのがわかる。この婆さんと、賭場の常連の男とのやり取りが、面白い。男が賭博で調子がよくなってから、破綻するまで描く。短いが中身が濃く、よく書けている。作者の力が出た作品になっている。これも締めの切れ味が良い。同人雑誌であることを忘れさせる。
【「透明感あふれる美老男」丸黄うりほ】】
芸能界の下らない出来事がネットニュースに欠かせないらしい。この作品は、少女アイドルと、美しく老いた老人アイドルの存在する世界を、諧謔に富んだ表現で語る。随所で笑わせる。かなり長いし、構築した世界をしっかり描く表現力に感心する。同人誌にはもったいない。
【エッセイ「ある休日に」織部なな】
京都に父親が一人で住んでいるという。大変だなと、思わず読んでしまう。しかし、話は母親との思い出。そんなものですな。
【「機密のラーメン」三上弥生】
近未来の国の人間データー管理とラーメンマニアとの組み合わせで、なぜか禁止されたスープのラーメンを探して食すまでの話。出だしはいい。だが、国民が大豆アレルギーになったり、データー管理されたり、リアル感のある題材と近未来であることの必然性がわからないところがある。
【「踊り子のファンタジア」苅田鳴】
スカミという踊り子が死んだそうだ。ガンジは、頭の上半分がパカッと開いて湯気が出る感じがしたーーとある。それは嬉しいのか、悲しいのか、怒りなのか、わからない。スカミのことが思い出に記されるが、どう受け取ればいのか、よくわからない。同人誌でなければ読めない難しい作品のようだ。ーー本誌は、どれも若者の生きる世界を活写するところがあり、なかなかの読み応えでである。例によって誤字脱字はご容赦。
発行所=〒566-0024大阪府摂津市正雀本町2-26-14.、清水方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
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