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2021年6月11日 (金)

総合文芸誌「ら・めえる」82号(長崎市)

【「ハウステンボスを創るということ」長島達明】
 巨大なリゾートと観光施設を何もない地域に建設し、バブル崩壊後に変遷と困難を乘り越えたハウステンボス。執筆者がこの事業施設の立ち上げから参加した記録である。その章の分類を紹介する。1、「神近義邦社長のこと」。創業者の神近芳邦氏(2020年に亡くなる)。2、「シャンデリアの話」。3、「レンガの話」。4、「『壁画の間』のこと」。5、「池田武邦先生のこと」。この項には、馬込文士村の住民であった作家の宇野千代が麻雀仲間であったことなどが記され、驚かされた。6,「結婚」。これらが内容豊富で、資料としても貴重なものに思う。現在、NHKTVで、日本の戦後時代に関する資料が、オランダやポルトガルで発見されており、世界の覇権争いに深く関係していることが明らかになってきている。その視点からの歴史のつながりも注目される可能性がある。
【「八十路を超えて(5)」田浦直】
 長い議員生活の記録で、よくぞ使命全うしたものと、まず敬意を表したい。平成元年に島原で、天皇両陛下の植樹祭のお手伝いをしたことや、フランスの航空機コンコルドが人気だったとか、そんな時代もあったと、感慨深い。戦挙はみずものというが、2006年ごろだったか、武見太郎の子息で、議員だった武見敬三氏が任期切れ。比例代表で立候補した時に、演説会に応援参加した記憶がある。その時に、楽勝に思えたのに、落選してしまったのには驚いた。すぐ復活し現在は政界で活躍しておられるが、あの時の驚きの想い出は消えない。
【小説「アメリカの影・長崎の光」吉田秀夫】
 長崎天主堂は、1945年7月26日、終戦間際に米国の長崎への原子爆弾投下で、破壊された。語り手の「私」の母は、その時22歳。被爆した母は、純真高等学校を卒業したが、教会シスターにならず、信者として女学校の事務職をしていた。多くの犠牲者の出たなで、奇跡的に助かる。しかし、大やけどをした顔には、片目のふさがったケロイドの深い傷跡を残す。そのうちに米国の原子爆弾障害調査委員会(ABCC)の組織の米国人が来日。原爆被爆乙女24人を米国に招待。1年間かけて、その傷跡を直したという。読みながら心が傷つき、また少し癒された。伝聞によれば、マリア像も破壊し、その顔も激し損傷したが修復はされていないという。
【小説「稲妻と案山子」遠藤博明】
 「私」は、還暦をへてサラリーマンからリタイア。趣味のカメラマン生活に入る。すると妻から離婚届を渡され、役所に届けてほしいといわれる。娘がいるが、とくに異論はなさそう。そうした事情を背景に、波佐見町・鬼木郷の案山子祭りを撮影旅行にでる。そこで、案山子の服装をした死体に出会う。ミステリアスな軽い読み物として、大変面白いものになっている。文章力と構成もきちんとしていて、作家的な手腕が冴えている。
【「大東亜戦争論」藤澤休】
 世界帝国主義の時代に、西欧諸国との侵略競争に参加した日本の旗頭が、西欧列強の支配から、アジア諸国を開放する大東亜共栄圏の確立であった。それは単なる侵略の口実ではなく、その思想の実施を示した各国での日本軍の行動歴史を著者が選択して列記している。インドでは、1、日本兵を讃える歌(マニプール州マパオ)の章。マレーシアでの日本軍上陸に始まる歴史「日本軍コタバル上陸」が英軍の抑圧から解放したと、同国の教科書に記されていること。「マラヤ独立隊」の創設で貢献したこと。インドネシアの独立に支援した実績。ベトナムの独立に協力した日本軍兵士など、戦後日本の存在を認知して、友好を強める要因になっている。日本の行った戦争の内容の意味を、見直す資料になっている。敗戦国となった日本は、東京裁判という世界列強が、日本を壊滅させるための恣意的な判決で、国の再興を阻んだ。日本は世界の脅威でないことを強調するために、自虐的な精神を世界に示し、やっとその平和性を世界に納得させてきた。米国は戦後の日本の台頭をどれだけ阻止してきたか。中国は共産党の正当性を示す道具としての反日政策をとってきた。中国の日本評論のなかで、あれだけ悪逆非道な日本に対し、一部を除いて、多くのアジア諸国が反日でないのは、不思議と首を傾げている。歴史の内容と意味を考える良い資料であろう。まだまだ、取り上げたい作品が多いが、ネット紹介の長いのは読まれないので、このへんまでにします。
発行事務局=〒850-0918長崎市大浦町9-27、長崎ペンクラブ、田浦事務所。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

 

 

 

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コメント

「ら・めえる」編集人の新名規明です。82号の紹介・批評有り難う御座います。6月20日に合評会を開きますので、その折に皆様に紹介します。

投稿: 新名規明 | 2021年6月12日 (土) 11時24分

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