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2021年6月15日 (火)

文芸同人誌「風の道」第15号(東京)

 故人となった作家、葉山修平の未発表作品「思い出の人」が掲載されている。5周忌にあたるとか。本誌の歴史を感じさせるものがある。
【「初夏の風」田村くみ子】
 粋な文章表現で、コロナ過の現代の町の風景描くと思わせながら、故人となった小説講座の講師の思いを偲ぶ作品。個人の口癖や言葉を印象的に表現したところに、芸術性の芸を感じさせる巧みな作品に読めた。
【「梅の侯」荻野央】
 語り手の僕は、サラリーマンであるが、ここでは拘束時間を交換価値として給与を得るという味気ない雰囲気はない。ちょっと気取った趣味性を発揮している。いい塩梅という仕事のバランスから、春先の梅の気配に気分がつながっていく。梅の咲く時期と場所のイメージから、友代という女性の想い出がよみがえる。梅林のイメージの雰囲気にふさわしい女性への懐古を描く。それだけであるが、生活的現実のなかの、普通なら失われてしまう想念を巧く定着させている。物語的ではないので、紹介しにくい作風だが、市民文芸という文学性をもったジャンルに入るのでは、ないだろうか。
【「連れずれ草(三)」澤田繁晴】
 受胎した母親の胎内で羊水時代を過ごした時に、その記憶をたどる話など、自己体験の彩りを加えて、お話を造り上げる。文章的な修練と文芸的な教養を活用したエッセイで退屈をさせない。自己愛と客観性の距離感が絶妙である。
【「雨女――一葉の恋―その〈六〉」間島康子】
 一葉と桃水の存在としての距離と心の接近の情念を、いろいろ想い、思案させる評論。
【「邪心の末に」諸 知徳】
 時代小説の読み物。同人雑誌作品には珍しく、架空性に徹して、虚構の面白さがある。もう少し大胆な飛躍があってもよかったのでは…。
〒116-0003荒川区南千住8-3-1-1105。吉田方。「風の道同人会。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

 

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