文芸同人誌「果樹園」第36号(豊橋市)
【「覚え書きー私の生まれた家」早瀬ゆづみ】
これは、自分の運れた家の伝記である。読めばつまらないということもないが、究極の自己表現で、一家のアルバムをみるような感じがする。同人雑誌でないと読めない他人の家族の物語であろう。
【「掌編小説四題」津之谷李】
中国の民話的なスタイルで、4作品。「笑不応易占帖(しょうふおうえきせんちょう)Ⅰ美人薄明」、「笑不応易占帖Ⅱ禁忌」、「杜子秋」、「太極図の娘」がある。「杜子春」の弟に「杜子秋」がいたというのが、面白い。中国文学に対する知見を活かした中国風の作品である。
【評論「万葉人の草たちへの思い」今泉佐知子】
万葉集の人間の原点を詠った作風の解説。懐かしい思いで読んだ。歌にこめられた豊富な物語性を再認識させる。
【「農園のバイオリン弾き」水上浩】
定年退職ご、どうやって生きる手がかりを探すかを模索した幸三という男が「きぼう農園」」を運営する話。無駄な話が多いが、ロマンチストらしい発想で、納得できるところがある。
【「ライブハウス」そら いくと】
この物語はーー偶然、同じ船に乗り合わせた(八丈島行き)三人が「旅は道ずれ」となる物語である。鏡子50歳、義雄60歳、香織24歳。――と作中にあるような物語である。こうしたまとめが書けるほど、問題提起がしっかりしていて、それに沿った逸話があって、面白く読んだ。登場人物の持つ世界がしっかりし、立体的で職業作家なみの手腕である。この一作が、本誌の文学性を格上げしている。
発行所=〒440-0057豊橋市萱町20、矢野方「果樹園」の会。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
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