文芸同人誌「R&W」第29号(名古屋市)
【「不一致の選択」小路望海】
ある日、「私」の家に電話がかかってくる。相手は夫と同じ会社の女性だという。そこで夫がゲイだということを知らせてくる。「私」は、理解ができず電話を切る。現在、夫婦は対外受精の不妊治療をしているところであるが、そういえば、ある時から、夫婦の営みはない。話が進むと、夫に同性の恋人がいることわかる。夫は子供が欲しいという。さらに、同性の男との関係も終わったという。難しい選択を迫られたところで終わる。題材がいかにも小説的で、それも結構複雑な心境を描いて、面白かった。電話から始まるところが、つかみがOKという感じで、読ませられる。
【「添乗員は荷物を失くさない」長月州】
国際旅行会社の添乗員が能村育海が、欧州の空港に立ち寄る旅で、ツアー客の荷物が亡くなっているので、それをみつけるための苦労話。旅先でいろいろの出来事がある仕事のようだ。小説の要件を満たしていないのが残念。
【「黄色い花」峰原すばる】
「私」の勉強部屋は、以前は物置小屋だったので、半分に仕切った隣には、レコードプレヤーとレコードがたくさん置いてある。それを聴くのが好きなのだが、それは私が幼いころに亡くなった父のものであった。あるとき、突然自分が男子生徒になっているらしい。それが父の学時代にタイムスリップしたことの出来事のようだ。その時代から戻ってみて、それがわかるという、童話風なもの。
【「私のうつ病体験記」加藤申二郎】
うつ病にもいろいろなタイプがあるが、その症例として読ませられる。同病のT山さんのことが気になる理由を掘り下げると厚みがましたかも。ちなみに、自分は朝が憂鬱なので、朝うつ病タイプだと、長年思い込んできたが、医師に診断してもらったら、として躁うつ病タイプで、うつだと感じている時はうつで、正常だと感じている時は、躁病なのだそうだ。今は、うつの時なのであろうか。この時期に紹介文を書かれた作者は、気の毒なのかも知れない。
【「正常性バイアスな人々」霧関忍】
コロナ時代に入って、名古屋市の住民で、佐藤家の場合を描く。いかにもありそうな状況が細かく描かれているので読んでしまうが、コロナ禍のなかで正常バイアスなど、ないことを感じさせる。
そのほかの作品も読んだが、うつのせいか紹介するのに、そのための視点が浮かばないので、ここまで。
編集発行所=〒460-0013名古屋市中区上前津1-4-7、松本方。
紹介者=「詩人回廊」・北一郎
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