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2021年2月26日 (金)

文芸同人誌「海」102号(いなべ市)

【「シジフォスの営み」国府正昭】
 まず、「私」は、住んでいるアパートに複数の警察官がやってきて、追われる夢を見て、それにめざめたところからはじまる。次にこれは夢ではなく、隣市に住む近藤さんが、新聞をもってきてくれる。80歳になる人で、同じ文芸同人誌「空」の同人である。それを受け取るのが正男である。そこに正男の書いた「逆耳」という小説の評が載っていたので、わざわざ届けに来てくれたのだ。正男はその新聞の評が、的を得ていないので、不満に思う。この辺は、同人誌作家の心理をうまく表現している。 その後、「私」の夢らしい不思議なドライブ体験が語られる。そして正男の育った過去の環境の説明になる。これまで40数編の作品を発表し、自費出版本も3冊出している。村上春樹や、中村文則、倉橋由美子などを読み返し、どうして自分が職業作家になれないのか、思いめぐらす。そして、同じ同人誌文学仲間の竹嶋女史から、米国の作家・ポール・オースターの作品のコピーを送ってくる。そのあとまた正男のポール・オースターの作品についての話になる。非常に複雑な構造の、読むのに想像力を必要とする作品。日常性と非日常性を混合させた手法として、意欲的で冒険的な作品である。その試みが、どれだけ読者に理解されるか、課題であろう。タイトルからすると、生活を実存的に表現しようとしたのか、小説を書く行為をシジフォスの神話になぞらえたのか、それも不明である。
【「裕平の場合」紺谷猛】
 サラリーマンの裕平は、思わざる課長職に昇進したことを上司から知らされる。そして、そのために転勤になることを妻が心配する。すると、案の定、転勤話がでる。勤め人の気苦労の話。今はドッグイヤーというほど、時代の変化が激しい。ちょっと、現代的でないのどかな話に読める。
【「謎めく人生」宇佐美宏子】
 愛子という母方の養女だった女性が、87歳で亡くなったことを知らされる。そこで、彼女に関するさまざまな記憶を呼び起すが、養女になったその経緯や人生がよくわからない。たしかに謎めく人生である。
【「死んだ彼女」川野ルナ】
 40代の女性が自宅で死亡していた。死後、数日経っている。咽喉をナイフで刺されている。他殺か、事故死、自殺かを刑事の「俺」が聞き込みをして、その人生をたどる。物語風な構成だが、事実は判定がつかない。小説として、気が抜けたサイダーのような感じ。気の抜けたサイダーを、どんな味がするか飲んでみたい人もいると思う。
【「浄瑠璃坂仇討ち異聞」宇梶紀夫】
 宇都宮城の歴史的な事実を堀り越したような、それにしえては異聞であるから、創作か、と迷いながら読む。本来は、大長編の構成を長い粗筋をたどったもののようだ。その根気と努力に感心させられた。長編執筆まえの準備作品か、誰に読ませるものなのか、疑問に思った。
編集発行人=〒511-0284三重県いなべ市大安町梅戸2321-1、遠藤方。
紹介者=「詩人回廊」・北一郎。

 

 

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