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2021年1月25日 (月)

総合文芸誌「ら・めえる」第81号(長崎市)(1)

 このところ生活環境の変化に、執筆が思うようにいかない。そこで、書いたところから順に記録しておくことにした。今回の本誌は、読んでも考えさせられるものが多く、すぐには紹介できないものが多い。
【「ひるこ様の海(後編)」片山みさと】
 ひる子様というのは、ある漁村のひるこ神社の神である。村で育った思春期からのレズ的な関係の女性と、男たちの物語である。そこで、村の伝統の夜這いの習慣があったが、その後、その儀式が復活し、現代でも行われる可能性があるという。暗闇のなかで、誰ともわからぬ村の男のとの女性とのまぐわいの場をひる子神社が提供する。この夜這いの儀式について、詳しい説明がある。伝統的な夜這いが、現代の不妊症の対策や、家族系の継承に如何に役立つかを、教えられた。いわゆる種のない夫と妊娠可能な妻のケース、その逆のケースを、この夜這いという儀式を行うだけで、子孫を残す可能性があることがわかる。昔の伝統的な儀式の合理性について、学ぶことができる小説である。夜這いの風習について、民族学者の赤松啓介の説を読んだことがあるが、このような視点ではないように思ったが、関連はありそうだ。
【「聖母の微笑」吉田秀夫】
 実話をもとに、小説的な記録をしたものであろうか。江上シスターが、1930年に純心聖母会という日本で最初の女子修道院を設立。そこの修道女たちは、米軍の長崎原爆のよって、焼かれ死ぬ。それが、神の意志ならの残酷きわまりない、悪魔的な存在であるが、どこまでもシスターから学んだ神の精神を信じ、死ぬ間際まで神への感謝とシスターへの愛の喜びを語って、亡くなっている。修女たちのその信仰の純心さに、美しさと、信仰心の強さにうらやましくも、可哀想のようにも感じ、涙が出そうになった。語り部としても見事な作品である。たしかに、神は彼女たちの心を救済している。唯物主義的「無」思想の自分だが、天国が存在することを祈る。
発行事務局=〒850-0918 長崎市大浦町9-27「長崎ペンクラブ」
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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