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2020年12月25日 (金)

文芸同人誌「浮橋」第6号(芦屋市)

【「落差」曹達】
 バブル崩壊後の、2000年ころの話で、その時期に不動産事業に情熱を燃やす男の話である。この世界が刺激的であることの魅力は、物語をする作者の熱のこもった文章に表れ、好感が持てる。情熱のない話は、自分にとってはただの作文でしかない。欲を言えば、不動産業界が、経済環境に左右されることの記録として、現在の低金利時代の不動産業界の事情と比較した視点での解説も欲しかった。現在しか知らない人には、不可解な現象にみえるのではないだろうか。
【「黄昏のテレスコープ」小坂忠弘】
 いくつかのエッセイの連作のようだ。「敬天愛人」の話と、歩数計と木賊(とくさ)色の傘」の2編。いわゆる、自分の感覚を中心に話を進めるもの。最近の同人誌には、肩の力を抜いたこのようなスタイルの作品が増えた。高齢化の進んだ結果であろう。それぞれ、心当たりがあったりして、洒落た趣向が面白いが、細かく説明するためのまとめる力が自分にはない。
【「馬を洗わば~『美少年』グラスにそそぐ煌めきは三島由紀夫の憂いのような~」尾崎まゆみ】
 本編に続くいくつかの作品は、三島由紀夫に関する、批評や感想記である。ここでは、「没後50年」ということで「三島由紀夫VS東大共闘五十年目の真実」について語る。今となっては、三島の行動は自己の存在証明にかかわる危惧たったのではないか、とし、その先に21歳で自死した歌人・岸上大作の存在を示す。自分は、よく分からない人の世界なので、「そうなんだ」と素直に受け取った。
【「遥かな人 三島由紀夫」春水】
 三島の作品や生活態度について、文学愛好者の視点から解説があって、大変面白い。終わりに、金芝河が「アジュッカリ新風―三島由紀夫に」という詩が掲載されている。これは知らなかったので、興味を持った。三島に対する罵倒であるが、それは日本の侵略に対する憎しみに重なるのであろう。自分には、同類者は相憎むという現象に読めた。人は過去に生きるところがあるのは、仕方がないことなんだろう。
【「僕の1970年」岡田勲】
 作者は建築設計関係に人で、その生活の中で、三島事件を知る。それから三島の作品を読み始めたようだ。文学と生活のなかの、出来事話で、共感を持って読んだ。
【「ウキペディアの三島由紀夫」村井重夫】
 発想がいい。そのまんまで、ウキペディアってよく書けているので、改めて読んで、感心した。
【「三島由紀夫の妻」広常睦子】
 夫人の平岡瑤子は、画家・杉山寧の娘さんであったという。死後は、三島の著作の整理、管理を行ったという。一頁であるが、あまり目にしない夫人の身辺が説明されている。三島の初版本は、神田では高騰して、奪い合いになったというような話をきいたことがある。神田の古書店では、夫人は厳しい人だとかとも聞いたような気がする。
 その他、【「三島由紀夫と戦争」夏川龍一郎】、【三島由紀夫の死んだ日】小坂忠弘】、など、同人誌作家たちの三島感が描かれていて、面白さは抜群である。
【「春浅き伊那・木曽路の旅」藤目雅骨】
 旅行記と同時に、文学論的に島崎藤村の解説なども詰め込んでいる。
【「復興の村」山際省】
 とにかく、出来事がずらずら書いてあって、長いのに驚いた。文章力があるので、農地周辺の自然描写など読ませられた。農業の生活者の一例であるのかと、漠とした気分になった。自分の書くものより優れているのは確かであるが、読み手になるとそんな感じになる。
発行所=〒659-00053芦屋市浜松町5-15-712、小坂方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

 

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