« 文学フリマ東京(第31回)11・22開催 | トップページ | 原満三寿氏の金子兜太論 »

2020年11月 4日 (水)

文芸同人誌「星座盤」第14号(大阪府)

【「永遠をばかにする」丸黄うりほ】
 タイトルからして観念的小説である。のぶこが昇天する間に、様々な身辺雑記が述べられる。すべて現世人の感覚である。のぶこが生きていても、死んでも状況は変わらない。首をかしげたが、改めてタイトルに思いを寄せると、なるほど、永遠などどうでもいいのだ、と納得した。
 【「あるコロニーの、桜」三上弥生】
 桜のある地域のコロナ禍の世界を、イズミ、タカシ、ユキエ、コージ、サナエ、マサノリの6人の視点で身辺を描く。作者は頭の中で作り上げた人物に詳しいので、興味が乗るであろうが、前知識のない自分には、誰がどんな心境であるのかなど、気にすることがないので、どうでもいい話に読めた。書く立場からすると、何か新発見がるのかもしれないので、手法として紹介する意味はありそう。ヴァージニア・ウルフの「波」という小説も、6人の視点で構成されているが、独白体である。
【「手の中の水」水無月うらら】
 冒頭に30代女性の独身女性の、もやもやとした自分の心境を語る。どうもそれは、風変りの父親との関係おいての問題らしい。読み手である自分とは世代が異なるので、その生活ぶりや、思考の様子は面白くは読める。時代の流れの中で、このような問題らしきものがはっきりしないまま、生き方とその気分を描いたように見える。情念の表現も淡白で、私小説的でもない。平和感があり、純文学的としてこだわりの表現はあるが、その世界は狭く自分にはピンとこない。スマホをみながら歩く人を見る脇で見ているような、他人感を感じさせる。
【「徘徊」金沢美香】
 大通りで試供品としてカイジュウヨーグルトというのを配布していたので、それを受け取って、家で飲む。そのせいか、夜眼らなくても、辛くなくは働けてしまう。そのヨーグルトの頒布場所はもういない。製品についてネット探すが、検索で出ない。不都合はないのだが、病院で睡眠薬をもらうが、眠れない。そのうちに新しいことにつては、忘れやすくなる。生活に確認作用が必要になる。それで日常生活というものは、そんなものだ、と思っている。おかしな小説だが、こうした発想の原点にこだわり、書いていったら、読者がつくかもしれない。
【「残されたものたち」清水園】
 コロナ禍で夫を亡くしたらしい妻が、夫の7回忌を迎える。近未来小説らしい。ワクチンは、まだ開発されず、マスクの生活が定着して居る。考えて想像した、未来社会を描く。社会全体ではなく、個人生活の範囲なのが、こじんまりと、まとまっている。
【「岩出三太の一日―序章」織部なな】
 前半は、三太という若者の、解放的で自由で幸福な生活ぶりが、丁寧に描かれる。この部分の表現は巧い。うらやましい気分で読み進む。ところが、後半に入ると、ある日に突然に警官に踏み込まれ、逮捕されてしまう。読んでいて、えっ、カフカの「審判」の世界か?と驚かされる。それから雑居房と強制労働や運動に苦労する。どうなるやら、というところで終わるが。とにかく、面白い。解説者がいて意味ありげな解説すれば、価値が高まるかも知れない。
〒566-0024大阪府摂津市正雀本町2-26-14、清水方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

 

 

 

 

|

« 文学フリマ東京(第31回)11・22開催 | トップページ | 原満三寿氏の金子兜太論 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 文学フリマ東京(第31回)11・22開催 | トップページ | 原満三寿氏の金子兜太論 »