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2020年10月13日 (火)

文芸同人誌「季刊遠近」第74号(横浜市)

【「名護の酒」浅利勝照】
 タイトルから沖縄の話ばかりと思ったら、ラスカイルという高校生時代の英語教師の死を知らされ、沖縄の紀行とラスカイル教師の話が、重層的に語られる。こういうのは、どのように紹介をすればよいのか、迷ってしまう。沖縄を知る人には、興味があるだろうし、それなりの感性の表現になっている。ただ、文学的には精神の充実が足りていない。本人が語りたいことがあって気が済むならば、それも良いかな、と思わせる。
【「雪に埋もれた家」花島真樹子】
 手法は、秘め事のある女性が、高齢になって、その過去を打ち明けるというもの。意地悪であった叔母を階段から突き落としてしまう話。事故のように見えて、誰にも疑われなかった。語りは「私」であり、そこに罪の意識を超える環境の辛さが表現されていて、形式と内容が合致していて、文学的完成度が高い。作者は、このコンラッドやサマーセット・モームが多用した、一人称形式で文学性の香りのする手法をすっかり身に着けていて、申し分がないが、19世紀的手法も古い形式でもある。今となっても、新鮮さがないわけでもない。
【「敵と邪魔者」逆井三三】徳川幕府が権力を尊王攘夷側に譲った明治維新。そこで活躍した志士たち、大久保利通や西郷隆盛たちの戦術と戦略を明快に、解説する。権力を守る武士たちに代わって、徴兵制による軍隊にとって代わるのであるから、武士にとっては、大変革である。ここでは、それを革命としている。
 新時代の転換期を描いたものとしては、整理がよくて分かり易いが、人それぞれ会社が単純ではない。これを読んでも、日本人の社会組織のありかたが、個性的であることだけはわかる。何が良くて何が悪かったのかは、誰にもわからないことがわかる。
【「青い三角屋根の家」小松原蘭】
 主人公の「私」は、亡くなった父親の父の戸籍を抹消するために実家に帰ってくる。そこでどんなものが物語がはじまるのかと、進むと、話は小学時代のことに飛ぶ。ん?と思うが、読みすすめても、父親の戸籍に関する話はでてこない。今度は桃子という学生との話がはじまる。ここからまた、別の話に移るかも知れず、それまで読んでいたことが無駄になるといけないので、その辺でやめた。現代文学の変質ぶりを知りたいひとには、お勧めである。
【エッセイ「ともだちのこと」難波田節子】
 これは、高齢者の友人との連絡の手段としての年賀状の話から、その周辺のことが述べられている。わかりやすい。自分もたしか一昨年の年末に、家内がインフエンザで、身体感覚を狂わせたことで、大晦日には救急車を呼び、そのごたごたで年賀状はどうなったか、いまだにその影響で、はっきりしない。見つまされる話である。また、コラムに脚の手術で対外用に杖を持つといいとあるのも、昔の怪我が響いて、歩きにくくなった自分の身に染みた。
 たまたま「季刊文科」という雑誌が届いたのでみたら、同人雑誌特集で、誰かが「季刊遠近」の難波田さんは優れた作家だと、褒めていた。同感である。
発行所=〒225-0005横浜市青葉区荏子田2-34-7、江間方「季刊遠近
紹介者=「詩人回廊」発行人・伊藤昭一

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