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2020年10月19日 (月)

文芸同人誌「私人」102号(東京)

【「フォーチュンカウンセラー」みやがわ芽生】
 本作品は、巻末にある作品であるが、ちょうど自分の考えていることに、関連するものがあるので、これから紹介する。語り手の「私」はフォーチュンカウンセラー。占い師のことをこう称するそうである。まだ、若い女性で、それだけで生活できず、アルバイトもしている。ここで、タロットカード占いの基本と、どんな人が占い師の客層なのかを、説明してくれる。非常に話の運びはスムーズで、登場人物の書き分けも手際がよい。作者の体験が入っているとしても、(実際は不明だが)、創作として、作品と作者の距離感がしっかり取れている。会話が当意即妙。才気があり職業作家的な手腕の持ち主なのが、わかる。これは小説の骨格をもっている。純文学ではない、と感じる人がいるかも知れないが、なにはともあれ小説というものである。自分は、その意味で純文学というものがわからない。作者と作品がくっついていて面白くないのが多いのである。エッセイにしても、なにを表現しようとしたのか不明なのもある。商業誌の純文学作家でも、作品との距離感がないのもある。同人誌作家のなかには、それを手本にしているのではないか、と思わすものもある。自分は、それは小説には思えない。この作品を読んで、やっと小説が読めたと、うれしい気持ちになった。
【「アラスカの夏」えひらかんじ】
 サンフランシスコの会社に父親のコネで就職した若者が、アラスカに行きたくて、そこに出かける。アラスカの風物が良く描かれている。その体験を生かしてか、精神をリフレッシュさせで、米国でのビジネスに乗り出す。ちょっと以前の時代らしいが、雰囲気的にアメリカ人のハイソサエティの情況と特性が理解できる。
【「ナナハン」根場至」
 定年退職後なのであろう、生協の配達仕事をしている主人公が、配達先のお宅に大型2輪バイクおいてあるのが気になる。そこで、自分もそれに乗ってみたくて、その家の持ち主に、後ろに乗せて欲しいと頼むが断られる。そこで、一念発起、まず普通2輪免許をとり、バイクを買う。その後、大型2輪免許も取得する。200キロもある大型バイクを支えるのも大変な体力がいる。そのため快挙であろう。高齢者のもつ夢を追求して大変面白い。
【「98点」杉崇志】
 カナリアの愛好家には興味深いであろう、少年時代からのカナリアに凝る男の話。カナリアの生態や飼い方には、理解が深まるが、文芸的な小説には思えない。語りの要領が悪い。小説教室の作品であるなら、批評のしやすい作風であろうと改めて思った。
【「協力者」梶原一義】
 昭和48年ごろの、政治思想活動の革命を目指す「過激派」に関する、一般人というか、ノンポリの人たちの話である。成増署から、地域の学生相手の下宿屋に、電話が入る。過激派と思われる人物の家宅捜索を、秘密裏に実施させてほしい、というのである。本人に内緒で、そんなことをしていいのか、もし、革命派だったら、ゲバ棒組の祟りが出るのではないかと、大家さんは悩む。いかにもありそうな話で、場所も具体的なので、おそらく事実に近いのであろう。この時代の政治的地下活動の一端が知れて面白かった。
【「『内向の世代』の疎開小説―李承俊『疎開体験の戦後文学史』を読む」尾高修也】
 李承俊『疎開体験の戦後文学史』という著書が青土社から出ているそうである。黒井千次、高井有一、坂上弘の疎開小説を論じているという。人間の奥深い心理を小説で表現するには、文章力の巧みさが求められる。日本の共同社会との不調和感について、思い当たるところがある評論。
発行所=東京・朝日カルチャーセンター「尾高修也教室」
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

 

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