藤原伸久「雲を掴む」が中部ペンクラブ文学賞
中部ペンクラブの機関誌「中部ぺん」第27号(2020年)に第33回中部ペンクラブ文学賞受賞作品の「雲を掴む」(藤原伸久)が掲載されている。同人誌「文宴」第131号に掲載されたもの。最終候補作品は、国府正明「水郷燃ゆー―長島一向一揆異聞―(「海」100号)/笹峰はやお「妖精の教室」(「彩雲」11・12号)/丹羽加奈子「ミドリさん」(「じゅん文学」101号)/土岐智恵美「五年後、幻のマイタケ」(「文芸長良」37号)。 受賞作では、男性が、普通に女性相手に性的関係を持とうとすると、不能になるという状況というか、体質というか、セックスが苦手なのである。そこに、男っぽさを気取る女性に出会って、恋におちる。セックス抜きの恋愛がはじまる話。選評を吉田知子・清水良典・三田村博史の三氏が記している。題材が最近のLesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)に関連したもので、そこがまず有力なポイントになっているようだ。たしかに、文体に勢いがあり、スピード感がある。評者が触れていないが、文体の勢いに、肉体労働をした人の気配を感じたが、経歴を見ると、演劇で舞台に立つているそうで、やはり活動的な雰囲気がでいる。これは、普通の同人誌作家にみられない味である。机に向かって、頭だけで考えた文章の平板さから脱出してることに優れたものになっている、と感じた。その他、竹中忍「同人雑誌私論―自立自尊小考」や三田村博史「第三回同人雑誌会議―報告を兼ねて」がある。面白かったのは、エッセイ・立花三郎「MEIN MENIFEST」で、なんと85歳で「共産党宣言」の本を毎年買って、読んでいるという。大内兵衛の訳が始まりだそうだ。自分も、法政大学に入学したのも、共産党宣言に触発されたからで、たしかに、名詩のようなロマンと、ヘーゲルの社会の歴史的発展段階論の要約的要素がある。良い事例を学ばせてくれた。
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