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2020年5月26日 (火)

文芸同人誌「勢陽」第32号(志摩市)

 本誌の作品に眼を通していて、生活のなかにマスクと健康維持に関する行為が、よく侵透していると感じたので、そのことを記した。《参照:市民文芸誌「勢陽」第32号に読む保健意識とマスク文化

【「花咲くところに」落合伴美】

 主人公の「俺」落合俊介は、父親が朝鮮半島の人間で名字も金である。母親が日本人で、その名字を使用している。子供の頃から「朝鮮人のこどもやーい」と蔑む仕打ちを受けて育った。そのためか父親がきらいだと、しながら現在の関係について語ることはない。話は昭和59年頃の青春時代の生活と恋愛が描かれる。ライトノベル風の文体で、その時代の風情をえがいている。在日朝鮮人としての立場を、重苦しくなく書いている。扱いによっては、重苦しいものが含まれる話だが、それを避けて書くという手法もあるものである。ただ、問題を避けるのではなく、正面から取り上げる作業も必要ではないか。自分は、企業のコンサルで生産性の向上のシステム構築にあたったことがある。そこに理屈っぽくて、とがったところがああるが、有能な在日の人がいた。そこで活動の役割をあてたが、日本人社員の差別意識とハラスメントに、彼の能力を削いでいるのに悩まされた。嫌がらせをする社員に、なぜ、そんことをするのか、とと詰めた。すると、親の世代から、さげすむ精神を教わった、というのには驚いた。現代人には歴史的な経緯だけでは、わからない精神構造があるらしい。政治的な思惑が個人的な感情に植えつけられると、始末に悪いことがある。それを踏まえて、国家組織の属人ではなく、個人としてその人を見るという意識を変えることが必要であろう。

【「定年カメラ」江崎芳子」
 定年後の趣味で、カメラを始めた男の一部始終を描く。趣味を探している人や同趣味の人には興味深いのであろう。
【「鏡ちゃん」大山まるこ」】
 アニメ風の文体で、視点を鏡に置いたことで、普通の家庭の典型的な姿を描く。視点を変えることで、物語化を成功させている。
【「手紙」野上淳】
 紫織という娘の父親が、彼女の友人の父親を殺害してしまう。そうした出来事の後の娘同士の交際のあり方が題材になっている。思い事件性のある設定である。その割には、作者は平静で問題意識から離れた表現が目立つ。力まないでいるのか、表現力が不足なのか、切実性に物足りなさが残る。
【「待つことは楽しい」秋葉清明】
  曹洞宗の座禅の会に参加し、実践する生活をしている。家族と別居していて、本宅と称し、妻と息子の関係を語る。息子の正は、社会人になって精神に変調をきたし、入院生活を送る。その後の対応座禅の精神で受け止める話。自分の母親も48歳になって精神的な不調に見舞われ、入退院を繰り返した。同時に、金剛経道場に通って座禅を体験したことがある。ただし、母について何か悩んでのことでなく、ひたすら理屈ではわからない不立文字んの体験をしたかったからである。座禅をしたことで悩みが解決することはなかったが、現実をそのまま受け止めるという精神を学んだかもしれない。座禅の効果を示す一例に読める。
【「いわさきちひろ美術館・東京(練馬区下石神井)」長木玲子】
 大変興味深く読めた。若い時の神経症的な思想と、三宅裕司が息子であったことなど、知らないことを教えられた。
【「うのと駿之介捕り物帳余話」(第三話)】
 趣味の時代小説である。文章が現代的で軽快。楽しませる精神も十分で、刺激的な題材を扱えば、読者層が広まるのではないか。
【「31号寸簡」】
 読者による、前号の読後感想が掲載されている。大変によい試みだと思う。小説はかけても、評論文の書けない人はすくなくない。
発行所=〒517-0502志摩市阿児町神明588、水田方、「勢陽文芸の会」
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

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