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2020年4月 5日 (日)

文芸同人誌「R&W」第27号(名古屋市)

【「風の居場所」霧関 勉】
 こども食堂「まどか」を運営する5人の大人たちと、そこを頼りにする子供たちの姿をそのまま描く。純文学的な主題で、しかも登場する子どもたちの境遇のそれぞれを、自然な感じで表現され、興味を誘った。食堂の運営の手順などは、体験したのか調査したのか判らないが、自分には参考になった。子供たちの置かれた、それぞれの辛い事情も説得力がある。現代の大人と子供の諸問題を表現することそのままが、ケースバイケースの形で問題提起になっている。ドキュメント性とと文学性の面で現代的である。
【「指と耳朶」小路望海】
 生まれつき、片手の指が足りない兄と、小さく変形した耳朶の妹が、親の遺産で一軒家に住む。兄は大学を卒業して、4年程働くが、それから引きこもりになる。語り手は妹で、兄と妹の彼氏の三人と自分の関係を語る。このような設定を考えたのは、面白い。ただ、それが人間の生来の何かが欠けている意識とそれにつながる行動をする人物としての色合いが弱い。これも現代性があるので、そこが惜しい。
【「御伽草子」寺田ゆうこ】
 古典の現代語翻訳で、<妬忌~1・2>は、妻を残して都に出た男が、好き勝手に過ごした上、家に帰る。妻が居なかったが、しばらくすると姿を現し、待つ身の辛さ、恋しさを訴えて激しく夫婦の営みをする。そして、朝に目が覚めると白骨が横たわっていた。2章は、そこで霊力に目覚めた男が、薬師として、嫉妬心がもとで愛人と寝ている夫を、恨みの霊力で殺してしまった妻の相談に乗る。出典は「雨月物語」と「今昔物語」。その他、古典から取り出した生と死の世界のつながりの話で、物語の面白さを楽しめる。
【「般若は知っている」松本順子】
 夫婦で探偵事務所を経営している。そこで、依頼人がやってきて事件を調査する。同人誌作品のなかでは、かなり長く中編に属する。最後まで書き切ったのは、根気の良さが感じられる。いわゆるミステリーのタイプには、謎解きものと、ストーリ―を追う物語ものとがある。この二つの手法が混在してしまって、容量を得ない趣味的作品になっている。それと苦し紛れに視点を移動させるなど、手際が悪い。特に、同人誌作品に多いエッセイ、生活日誌的な書き方なので、文章と語る内容が合っていない。とは言え、趣味的自己表現のものと割り切ってしまえば、これでよく書けているといえる。
【「人々、そして映画たち」渡辺勝彦】
 以前は、社会派的な内容の作風で力んだものが多かったが、ここでは、肩の力を抜いて、自然体で過去の出来事や映画と人間的な成長について語る。自分より年齢が4、5才若いようだが、同時代性をもった味わいを感じて、大変面白かった。本誌は、自分が読み始めたのは3号くらいの初期であったろう。そのころは、作家志望のモチベ―ショウンがあったのと、自分は事務所をもっていたので、本サイトを読んでの渡辺氏への住所問い合わせが、多くあって記憶しているような気がする。あの頃は、自分も出版社に原稿を買ってもらったりしていて、業界の動向がわかっていたが、今は現代の世相すら把握できず、作家業は隠居してしまった。そうなると、編集者に気に入るような、とか、読者が驚くような仕掛けをーーといった書くモチベ―シュンも失われてしまっている。作品紹介が遅くなったのは、自分はどういうポジションで、読み紹介文を書くか、考えてしまっていたからである。
ーーその他、すべてに眼を通しているが、名古屋「朝カル」の藤田充伯講師・小説教室の作品テキストでもあるようなので、「みな読みました」で済ませたい。
発行所=〒460-0013名古屋市中区上前津1-4-7、松本方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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