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2020年1月 5日 (日)

文芸同人誌「風の道」第12号(東京)

【「雨女~一葉の恋」間島康子】
 なつこというのが、一葉の本名なのか、彼女と彼女の小説を雑誌社に紹介し、世に出そうとする桃水との関係を、日記を資料に描く。しっかりした構成があるらしく、ふたりの好意の生まれる土壌を抑制した筆致で描き、その切ない事情が理解できる。お勧めの連載である。
【「風のうた」藤原道子】
 母親の亡くなった後の家の風景を題材にする。庭の植え込みの植物を目にしながら、モクレンの樹の根の強さと語る。庭の植物を語りながら、常に母への想いがこめられているのがわかる。
【「桔梗」荻野央】
 庭の植物になかなかの蘊蓄を感じさせながら、子供のいない老夫婦のその過去を潜ませた日常を語る。凝った作品である。
【「行雲流水」澤田繁晴】
 「生き乗る技術」で生きとし生けるものの存在に思いを馳せ、自ら生けることの罪業性をかたる。「来し方行く末」「憎まれ老人世にはばかる」「融通」「欲しがりません。勝つまでは」の各章がなどがある。ここの話題は、樋口一葉の伝記のような他人事でなく、自分自身のことだけに限定されている。人は何を語りたいかというと、まず自分のことである。フローベルが「ボヴァリー夫人」をそれは「私」だと、いったというが、ここではそれ以前の、素の「私」を語る。究極の自己表現に至った、それまでの心の経過を推察させる。物語派にばかばかしい話ばかかりである。それにしても、これまで書いていた「澤田家の秘密]は、どうなったのか。
【「日本・私家版「ポランスキーの欲望の館」小川田健太」
 ポランスキーといえば、猟奇的な事件を起こしている有名な監督である。本篇によると「戦場のピアニスト」の前に「欲望の館」というエロチックな作品があるそうである。そこで作者は自らの性的な体験をイメージ化する作品を書き、その過程を同時に記したもの。欲望を自分で掘り起こす作業として読むと面白い。
 その他、良くも悪くもひと癖ある作品が多い文芸同人誌である。
発行所=〒116-0003荒川区南千住8-3-1-1105、吉田方、「風の道同人会」。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

 

 

 

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