文芸同人誌「メタセコイア」第16号(大阪市)
【「白い闇」和泉真矢子】
恒子は58才。義母の葬儀、教会の献花式に参列しているところからはじまる。彼女は股関節に先天性のゆがみがあり歩く姿に影響がでている。夫の姉もクリスチャンで、恒子はその縁からか、バツイチで子供が外にいる夫の圭一と見合い結婚した。いわゆる容姿に劣等感のある恒子の結婚生活の現状を描いたもの。なにか現世に不足を感じる恒子の気分をぐずぐずとした書き方で描き、純文学的作品ではあるが、クリスチャンにおいて、救いのない生活の心の闇が、印象に残った。このような事情を手際よく描いてしまったら、通俗小説になってしまう。すっきり描かない手際の悪いのだが、ポイントを抑えた書き方が純文学的になることの皮肉を感じる。
【「愛はきっと不平等」よしむら杏】
離婚した女性が、さまざまな経過をへて、元の夫に再開するまでをひねった手法で描く。元夫は、原発事故で汚染された地域で、除染作業を行っている。除染を請け負った会社は、集めた汚染落ち葉を、川に流してしまおうとする、それに抵抗感を感じた元夫は、その事実を外部に告発する決心をする。前半はもたもたするが、後半の元夫婦のメールのやりとりのあたりから、俄然筆が締まってきて、良い結末にしている。
【「大晦日」北堀在果】
正志が、どうしたのかという前提なしに宝塚駅の様子から始まる。その後、家族の事情が過去形で語られるので、正志が若くない男で、両親とは、勤めてすぐ別居したが、年に一度は、実家に寄っている。父親は同居時代に、会社をやめ、介護事業をしていた。作者の語るところから、昭和時代の家族制度のなかで、そのしきたりに、従ってきてきた正志であることがわかる。両親の面倒をみる必要があるという体場かたか、いわゆるババ付きという環境にみられ、結婚相手にも敬遠される。その苦労と苛立ちが描かれている。団塊の世代の家制度の変化の状況の一例として読めた。父親との関係が描かれているが、表現が浅く全体を漠然とした印象にしている。
【「虹の切れ端」桜小路閑】
22世紀の近未来小説で、南田洋はアンドロイドの安藤愛をお手伝い訳のと同居人として迎え入れる。原子力の欠点は、技術革新で解決されたなどの説明がある。なにを表現したのかわからないが、おそらく未来生活を想像して書きとめたのであろう。
【「名残り」マチ品】
どこの場所かわからぬ見知らぬ風景、書き手だけ知っている女とか、自分の持つイメージを描いた散文。退屈なことこの上ない。なにか読み落としがないかと確かめていたら、電車を乗り越してしまった。前衛的というほどでもないが、わからないイメージなので、きっと純文学なのであろう。
【「おお牧場はみどり」楡久子】
語り手の女性は若くもないが、近くに年老いた両親が住んでいる。週に一度は泊まり込みに行って、両親と過ごす。退職している夫は、良く彼女の家事を手伝ってくれる。その生活ぶりが、軽快な文章で表現されている。いろいろあった人生を生き抜いて、無事で穏やかな生活をしてることに感謝と安堵をする様子が巧く描かれている。気がかりな両親も、彼女の娘が一緒に住むらしい。みんな頑張って生きている。日々是好日を浮き彫りにする。
【「遺産」多田正明】
伯母が亡くなって、遺産が何億かあり、それを相続人で分けると、4千万円弱にるという。そこら、どうしてそのような大金を作ったという思い出話。言うことなし。そうですか、という読後感である。
発行所=「メタセコイア」の会、多田代表。連絡先=〒534-0002大阪市都鳥区大東町1-5-10、土居方。編集長・マチ品。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
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