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2020年1月 4日 (土)

2019「文芸この1年」東京新聞(12月25日)佐々木敦さん×江南亜美子さん対談(下)

 佐々木 地球や人類レベルの問題をどう書くかという意味で、「世界文学」という言葉が使われるようになった。
 江南 リチャード・パワーズ『オーバーストーリー』は、人類すら超越した世界を描く。ミシェル・ウエルベック『セロトニン』はグローバル企業が人の心を殺す。
 佐々木 女性やアジア人種への蔑視とも取られかねない独特の視線を含め、ウエルベックの小説や登場人物の持つ心性が許し難いとの意見もある。なのに日本でも人気で、そのねじれに興味があった。
 江南 ウエルベック作品は必ず、欧州的な価値観で動く白人男性が主人公。でも彼の絶望を、アジアの女性である自分も共有できてしまう。属する国や民族を超えて、近代の終わりに生きる人類という共通点があるからなのか。
◆脱人類という視点
佐々木 脱人類、ポストヒューマンという視点も、いろんな文脈で出てくるようになった。そこで名前が挙がるのが村田沙耶香。これまでも『殺人出産』『地球星人』などで、人間が人間であるギリギリの紐帯(ちゅうたい)を切ったらどうなるかという実験をやってきたが、短編集『生命式』でも相当多くの人が受け入れ難いような倫理観や人間観というものを描いている。にもかかわらず、かなり大きな支持を得るという現象も興味深い。
江南 村田は「今あなたが持っている価値観はどこから来たのか」ということを常に問う人。「人間が空気読んで中道に、中庸に生きてどうする」「もっと野性を持て」というメッセージを感じる。
 佐々木 僕が千葉雅也『デッドライン』、江南さんがミヤギフトシ『ディスタント』を今年の十冊に挙げている。ある意味、好対照の作品。かたや哲学者、かたやアーティストの初の小説で、セクシャリティーの題材も絡む。
 江南 千葉は理解してくれるなという拒絶の切実さをキレのある言葉で描く。一方で、自己言及的で読者の誤読を許さない生硬さもある。同性愛者の性愛が徹底してあからさまに描かれるのも特徴。ミヤギは感情の揺れをひたすら繊細に描く。ともに青春小説だ。
 佐々木 千葉は文体への意識が高い書き手。論文を書くように精巧につくりあげている部分と、繊細で個人的な感情が一つになっている。デビュー作として非常にすばらしい。芥川賞候補にもなっている。本業はあくまで哲学者だろうが、これからも書いてほしい。それにしても一九九〇年代以降、異業種からの文学への参入が増えた。《参照:文芸この1年 佐々木敦さん×江南亜美子さん対談(下)

 

 

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