総合文芸誌「ら・めえる」第79号(2)
【「芥川龍之介と永見徳太郎」新名規明】
芥川龍之介が28歳のころ、菊池寛とともに長崎にきたという。永見徳太郎という人の文壇的な人生が大変興味深い。芥川の貴重な資料もあるようだ。新名規明・著「芥川龍之介の長崎」(長崎文献社)、同「永見徳太郎」(同)がある。街には「永見徳太郎通り」があり、読売新聞の石田和孝・文化部記者を案内したという。通りの写真もある。やはり地元ならではの文壇史があるものだ。
【「長良川」吉田秀夫】
10年前に30才代で結婚している語り手の「私」は、父親に育てられた。母親はいない家庭であった。その父親が病死した。そこから話が始まる。父親に「私」の家庭に住むことを勧めたが、独り暮らしを続けた。父は、母親のいないことや、「私」の生まれた当時のいきさつを語ることがない。生活のなかで、その事情を知るヒントを得ていく。出生の追求を問題提起にして、話の運びが自然で興味を掻き立てる。そして、父親の満州での悲惨な体験のなかで、亡くなった親友との思いを「私」は知ることになる。ざっくりとした文章のすっきりした味わいが魅力的である。
【「美術館物語~プラドからの風」麻生真】
N県の政策企画部都市構築推進課のマコティンという職員が、美術館や博物館関連の建設に関する経過を語る。地元に人には面白いのではないか。
【「グランドキャバレー」砂田良一】
昔、東宝映画で森繁が社長で、小林桂樹、加東大介、三木のり平などが出演の社長シリーズが流行してから、石原裕次郎の日活時代らしい。サラリーマンのキャバレー通い全盛期のお色気遊びのあれこれを描く。明るい筆致で、いろいろな女性の性癖などを軽い立ち居で描くお色気話。女性と行為をしたことをもって、一人前の男になったという、懐かしい発想などが描かれ、そういえば、そうだったという感慨もでる。自分は、これより弱めの性的な場面を説明した作品を「小説家になろう」に投稿しておいたら、2年後くらいになってサイトのチェックで、作品が削除された。しかし、当然だが書店販売の小説雑誌には、それ以上の過激な表現の作品が多くある。紙の本でしか表現できない作風の存在があるのではないか。
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