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2019年10月15日 (火)

同人誌「季刊遠近」第71号(横浜市)

【「うどんげの花」花島真樹子】
 昭和の第二次世界大戦とその戦後を生きて来たと思われる女性の独白で語られる。聴き手は、読書会で集まった仲間である。やや長いので、語り手と聴き手の関係に形式的には、定番的手法が用いられている。たとえば、コンラッドの「闇の奥」という古典的名作が代表するように、語り手と聴き手の形式があり、19世紀的小説のひとつの形式である。話は、昭和17年ころの、誰もが明日を知れぬ不安を抱えたなかでの戦時中の銃後の家庭の苦しい生活が、静かな調子で語られる。大叔父の東京の家に住まわせもらうことになる。そこで、灯火管制のためカバーを電灯に被せていた覆いをとると、そこにうどんげの花が咲いていた。ほんとうは花ではないらしいが、ここでは不吉な花とされている。それをクリスチャンのA子にあげるのだが、クリスチャンの彼女は喜んだが、その後彼女のいる教会のが放火され亡くなってしまう。地道で重厚な筆致で、雰囲気小説としてよく整っている。
【「ユズリハの木が時雨れて」木野和子】
 作品には美しき老女、という人が登場する。老女というのが、リアリズムから脱却して、夢幻的世界を語るのに適している。要は、人間は死ぬまで愛が去れば美しく過ごせるという話か。すがすがしさのある文章が印象的。
【「東京シティボーイ」藤田小太郎】
 南国九州の離島の学校の教師が赴任している。退任まえの「私」のところに、学びたいと離島勤務に来る青年がいた。彼は、鉄道マニアであった。上京した時に、東京の雰囲気を伝えたりするが、肝臓病で若死にしてしまう。何となく、年寄りが生き残り、若い新しい世代は死ぬことに、日本の衰亡を思わせ、侘しく感じる。
【「詐欺事件」森重良子】
 新宿に買い物いく途中に、携帯電話で話している同年配の女性が孫と電話をしている野に出会う。話は、幾らなのとか、どこに受け取りにくるのかとか、明らかに、なり済まし詐欺に騙されている様子である。主人公は、それは詐欺ですよ、と教えるが、迷惑そうにして、相手にする気配がない。警察に届けるかどうか、悶々とする過程を描く。読ませる筆力は充分あるが、題材が小さすぎて、その筆力が充分に生かせていないように思う。
〖「未来少年の悟り」逆井三三】
 近未来小説で、若者たちが未来社会のなかで、苦闘する状況を描く。ここでの日本社会では、中国の影響が強く、国民は都市民と農民とは戸籍は異なる。議員は50歳以上でないとなれない。その制度に反抗して革命を志す若者の話。そこまでなるには、日米安保はどうなったのか不明であるが、時代の流れを捉えた作品である。
【丘の団地に住む家族】難波田節子】
 団地の住民である則子はある日、若い頃にしっかりた考え方をする佐田涼子という主婦仲間であった女性が、だらしない室内着で、表を歩いている姿を見る。人違いかと思い、涼子の家族の情報を、子供たちの交際範囲から仕入れる。すると涼子は認知症にかかっているらしいこと、則子の娘と同級の涼子の息子は英国の有力大学を出て、現地の美人と結婚したというような情報が入る。基本は、涼子の家族のそれぞれの様子を、噂話によって、外部からの情報で、描きだすもの。ジェーン・オースティンの「傲慢と偏見」を思わず手法で、いかにも古典的な懐かしさを感じさせるものがある。
発行所=〒225-005横浜市青葉区荏子田2-34-7、江間方。「遠近の会」
紹介者=詩「詩人回廊」北一郎

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