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2019年9月16日 (月)

文芸同人誌「群系」第42号(東京)

【「本を出す」小野友貴枝】

 安藤沙也というかつての職業夫人が、高齢になってそれまで趣味としていた文芸作品や、生活日記を書籍化することに力を入れている。保健福祉関係の専門職にあった彼女は、「月刊保険ジャーナル」などの雑誌には寄稿していた。そうした連載記事の書籍化した時に、文章力の不足を感じコンプレックスとなっていた。小説教室などに通い、創作することに力を注ぐ。小説や日記を相次いで自費出版する。その出版過程が詳しく説明される。彼女は、高齢者の知見や能力が徐々に衰えるのを恐れている。読むほどにそれが自分自身を語るエッセイに近いものだと、分かる。まさに、小説の基盤である「描写の奥」に「寝ていられない」そのものである。本を出すことへの強いモチベーションが表現されている。とくに、職業と家庭の両立をさせたなかでの、文芸にかかわる心情になかに、本を出すことに対するこだわりと主張がある。文学的であることを理由に、内容の意味不明さを肯定する傾向に一石を投じるのではないか。

【「お布団」逆井瑞穂】

 これは、機関車関連のマニアが、子供のころの鉄材の解体屋に機関車がおいてあって、それの部品を夜中に盗み出そうした話があり、そこで、音消しのために布団を利用したらしい。こだわりは、機関車と母親のことらしいが、全体像がつかめなかった。

   その他、本誌は近代文学作品と作者への評論が多い。特集は「815の青い空 戦争と文学」で、その時代を生きた作家と作品が評されている。特集のほかに【「村上春樹再読(10)―『スプートニクの恋人」・連作『地震のあとで』」星野光徳】がある。村上作品をすべて、読むことは少ない自分には、ある時期の見解があって、そうなのかと思い、面白かった。【「中野重治『萩のもんかきや』-世間の片隅に生きる戦争未亡人の母」小林弘子】は短いが、根は詩人で、小説家の目のつけどころとか、リズムに関する感覚などが知れてこれも面白い。

 その他、近代文学の作家たちの評論がある。現在、若者の国語教育の方向性が、論裡国語と文学国語に分かれたなか、論理国語の選択が優勢だという。その意味でも、文学をする機会を増やす活動として、今後への役割が期待れるものを感じる。

編集部=〒136-0072東京都江東区大島7-28-1-1336、「群系の会

紹介者=「詩人回廊」北一郎。

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