同人誌「星座盤」第13号(岡山市)(下)
【「祖父の家」丸黄うりほ】
ワカナは、町の高台にある祖父の家を訪れる。何かが起きたらしく急いで駆け付けた。行くと皆がすでに集まっているという。屋敷の庭には、さまざまな変わった花が咲いている。豪華な料理だが、よく見ると紙でできている。いろいろとおかしなことがある。集まった親戚もボール紙でできている。このふしぎな世界は、ワカナはすでに死んでいて、彼女のためにすでに亡くなっている親戚が迎えにきていたのだった。ワカナがまだ若いのに心臓発作で突然死していた。「もうお前は死んでいる」の文芸版だが、面白く読んだ。藤枝静男という作家が、「空気頭」という変な作品を書いているが、文学味が深い。本作品も世代が異なると、このような表現になるのかな、と思わせる。
【「公民館」金沢美香】
派遣労働者であった語り手は、5年間連続して契約すると、正社員にしなければならないという法律が出来たので、5年直前に契約解除される。そこで、故郷に近い町にふらりと行く。この程度の動機でなんで? と、思うがよくわからない。父親は、長男の彼が派遣労働者であることに、抵抗感を示していた。現在の制度に、まだなじまない家長父制度の流れ、これは作者の世代的なものを示すのか。自己表現としては読めるが、新しい土地に住んだ語り手もその他の登場人物も、印象的な特徴がない。「死にたくないから、生きている」。それは当然のことで、なにか活き活きとしたものがない。各地の神社では、死者がでることを予想したお祭りがある。実際に死者が出るのに、毎年行っている。それで生活に活気を作り、明日を生きる力を産んでいるのではなかろうか。そういうことを考えさせる作品である。
【「スティグマーター replica dool-side snow」新井伊津】
美貌の若者のゲイ的生活を中心に、その具体的な行動を描く。教授にサービスをして点数を稼いだり、生活を支えたりして暮らす。生活のなかに浸みこんだ、ゲイ活動で、それが美貌の若者の特権のようになっているらしい。
とくにストーリーのようなものはないようだが、物語としては、何かの事件か、出来事を軸にしてこうした世界を展開したら、読後感に区切りがつくような気がする。間接的にLGPT意識の高まりの反映として、同時代性があり、面白く読める。
発行所=〒701-1464岡山市北区下足守1899-6、横田方。「星座盤」
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
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