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2019年9月28日 (土)

文芸同人誌「星座盤」第13号(岡山市)(上)

【「他言無用」清水園】
 勤め人だった「僕」は、小説家になりたくて、仕事を止めて創作に専念している。その時には、反対をしなかったらしい連れ合いは、何時までも鳴かず飛ばずの夫に愛想をつかしたのか、去ってしまった。それ以来、一人で文学賞を狙って、創作生活を続けている。その間に、居酒屋に通うようになる。そこで、アルバイトの女店員と知り合い、文学の話をする。その間に、ある文学賞へ応募もしてるが、かすりもしない。いつものように、居酒屋にいくと、すでに女店員はやめている。話は、その女店員は、その男を材題にして、彼の落ちてしまった文学賞の公募に当選していたことがわかる。いかにもありそうな作家志望者を皮肉った作品。
 テキストとしての基本設計は、できている。しかし、設計の細部が足りない。たとえば、去ってしまった妻の意味が薄い。売れない作家志望になっている間に、何か妻の気に入らない決定的なことがあるとする。「僕」はそれに気付かない。だが、世間話で話を聞いた彼女は、そこを見抜き、小説の題材にする。「僕」そのことで、自分の人間的な欠点を思い知らされるーーというような設定を満たす発想がいる。また、娯楽ものにしては、文章が素直すぎて、ストーリーの運びにアクセントがない。村上春樹が読まれるのは、比喩や暗喩を多用して、退屈なところを通過させているせいでもあろう。
【「りだつダイアリー」三上弥栄】
 うつ病を持ちながら、会社勤めをする人の生活日誌。減薬に苦心する様子が記されている。病をもって、仕事をするのは、大変だと思うと同時に、うつ病の薬が多種類あるのに驚く。自分も、アレルギー症から、自律神経失調から栄養失調になった挙句、うつ病と診断された。体質に合うアレルギー薬をみつけたことで、安定剤に切り替えた。その経験から、書かれている薬の種類を減らす努力を興味深く読んだ。よく、仕事中に眠らないものだと感心する。これは推測だが、医師は患者が薬の副作用を訴えると、それを抑える薬を処方するのではないか。そうなると、どんどん薬は増える。人々は、表面上は元気に見えても、内情は病をかかえて、隠して戦っている人は多いはず。自分もそうだった。多くの人に参考になりそう。
【「息災」織部なな】
 還暦を迎えた古仲葉子は、子供が独立し、夫と二人の生活になっている。社会的な人的交流の機会が減ったと感じる。趣味の仲間の家族が、病気になったり、なくなったりする。そんな時に泉という男と知り合い、古典を読む会などの勉強会に誘われる。そこで、ときめきのようなものを感じる。刺激の多い情報社会のなかで、細やかな感覚の表現がある。小説であるから、それなりに、若年寄りの世間話に読める。人間はどんな目的があって生まれて来たのか答えは見えない。人生の過ごし方に迷いがあるのは、若者でも同じ。還暦で見う失いがちな生きる欲望に、如何にして出会ったか、という発想で書けばもっと普遍性が強まるのでは、ないだろうか。
【「可燃」水無月うらら】
 妻子ある男と若い女性の現代的な恋のはじまりと終わり。女性の孤独な心境と、その立場で生きる決意が描かれる。男性との交流の絡みが淡白に描かれていて、日本食的な風味のある作品。切った髪の毛にこだわるのだが、それも突っ込みが浅いため風俗小説の範囲。どこかで、深くこだわりを作って見せないと純文学にはならないのではないか。なぜか、なんとなく、サガンの若書きの「悲しみよこんにちは」や「ある微笑」を思い浮かべた。
発行所=〒701-1464岡山市北区下足守1899-6、横田方。「星座盤」
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

 

 

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