小説に単行本と文庫本と、二回のチャンス=額賀 澪
新人作家の単行本はびっくりするくらい売れないから」 「とりあえず、文庫が出るまで頑張って」
家デビューした直後、いろんな人からそう言われた。二〇一五年の夏のことだ。それからおよそ三年がたち、私は十冊の単行本を刊行した。一冊出すたびに、「びっくりするくらい売れない」という言葉の意味を噛み締めることになった。
文庫本の多くには、親本と呼ばれる元となった単行本が存在する。単行本が刊行されて数年たってから廉価版として刊行されることが多いが、最近は文庫書き下ろしという形で世に送り出される作品もたくさんある。
大学時代、私はとんでもなく貧乏だった。飲食と家庭教師とライターのバイトを掛け持ちして、空いた時間で小説を書いて過ごしていた。書店に行っても、単行本の小説を買うことができなくて、もっぱら大学と街の図書館のお世話になった。文庫本でさえ、「この本を買うお金って一日分の食費より高いな……」などと考えながらレジに持っていった。
普通の大学生に比べたら本を読む方だったはずの私でさえ、なかなか単行本に手を出せなかったのだ。自分の単行本がそう易々と売れるわけがない。しかし、ポジティブに捉えるなら、一つの小説に単行本と文庫本と、二回のチャンスがあるとも考えることができる。
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