文芸同人誌「文芸復興」第38号(東京)
堀江朋子氏の編集後記による、読解力に秀でた絶妙の掲載作品紹介があり、雑誌の品位を高めている。本号は、第二次文芸復興の同人で、第三次文芸復興の代表兼編集長を務めた会田武三氏の追悼特集を組んだ。寄せられた追悼文を読みながら会田氏が偲ばれ、寂蓼しきりである。ーーとある。
【「あしたへの心得」中嶋英二】この作品は、オーソドックスで、巧みな文章力で、兄弟の愛と異性愛(兄嫁)とを組み込んだ欲張った内容を、心理的な描写を組み込んで描いて、野心的な試みに読める。同人誌作品なので。短編であることの限界性のなかで、興味を広げる書き方に注目した。伝統的な作風があっての現代文学なので、ほっとする落ち着きを感じさせる。
なお、あらすじについては、堀江氏の良い編集後記を引用する。ーー和夫が兄健一を嫌いになったのは、健一の専横で不遜な振舞いに気付いた小学生の頃。以来、ずっと不仲だった健}の嫁直子から、父の古稀の祝をするという知らせが来た。一方的な知らせに反擾しつつも、直子であるためと父の古稀祝の品を買いに行く。昔から直子に惹かれていた和夫は、積極的な直子に恋心を募らせる。和夫には長い付き合いの山内という、忌憚なく話せる友人がいる。その山内が、郷里の北海道に帰った。長年付き合った女から逃れる為である。直子からの電話で、健一が胃がんの手術をするという。健一の死という事が頭をよぎった、直子も同じ思いだった。直子も同じ思いだった。和夫は、北海道の牧場を経営している山内のところに行くことに決めた。幸せと不幸せの隙間をそこに見つけたのだ。今迄の作品と少し違う結末である。ーーと、ある。
発行所=〒169-0074新宿区北新宿2-6-29-415、掘江方「文芸復興社」。
紹介者=「詩人回廊」北一郎
| 固定リンク
コメント