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2019年8月 4日 (日)

文芸同人誌「北狄」第387号(青森市)

 本誌の前号に掲載の笹田隆志「一九九九年九月三〇日」は、東海村の原子力施設の人的なミスによる事故を、その災害対策に出動した消防隊の立場から小説化したもので、出来事の事実を伝えないでいたことに触れているので、暮らしのノートITO「文芸と思想」に特記した。何が起きているかを、メディアが伝えない風潮に対する警告にもなっている。
【「選ばれし民」福士隆三】
 イスラエルのユダヤ民族の流浪の歴史の苦労と、発想の優秀性を「イスラエルがすごい」(熊谷徹・著)をベースにした全体像を語る。そして、日本の民族性について、その比較をし、見習うべきではなかろうか、としている。たしかに、ユダヤ人系の優秀頭脳は、アインシュタインやマルクスなどノーベル賞ものの発想思想で世界的に影響を与えている。また、そうした功績があるし、頭脳的総合的優秀性は際立っている。ヤハヴェのユダヤ教と日本の神社神道と発想が異なるが、似ているという説もある。そこで、経済循環的に衰退期に入った日本国の参考に出来る面を取り上げたもの。ただ、イスラエルという国家とユダヤ民族とは同一に思えないが、こうした論は少ないので参考にはなる。
【「回想する伊都子」秋村健二】
 70代後半の女性の体験談の独白を記録した形式の話。女性は思春期ともいえる若さなのに、村の有力者から頼まれる。何でもその家の息子が嫁をもらう筈であったが、どこかに無理があって、恋人らしき男と共に姿を消したという。そこで、家の手前、息子の結婚の披露宴をしなければ恥になる。そこで、形だけでも整えるため、披露宴の花嫁の代役だけをして欲しという。しつこい依頼に折れて、それを承諾。嫁ぐことになる。そこから女性の数奇な人生を送る。数奇と言っても、日本の家長制度と村社会のなかで翻弄されたもので、今でもその名残を知る人には、納得のいく興味深い内容である。
【「天守に祈る」青柳隼人】
 多発性骨髄腫というのは、大変な難病らしい。息子がその病気になったことと、家族としての心痛と、友人関係を描く。小説としてあれこれ、旅先での風物などを細かく描いた労作である。このような状況を描く創作は珍しいので、なるほどこのようになるか、と納得した。実際には、自分は、ずっと若い妹が癌で、あっという間に亡くなって、2度の見舞い面会しかできなかった思い残しがあるが、そのことについて、なにも書いていない。まだ、物語化する手がかりをつかめていないのが現状である。そこが創作の難しさであろう。
発行所=038-0021青森市安田近野435-16、北狄社。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

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