文芸誌「星灯・SEITO」第7号(東京)(1)
【「NO COFFEE、NO LIFE.」渥美二郎】
コーヒー好きのそれにまつわる事柄を、喫茶店や人生模様などをからませた話。会社内のコーヒー利用施設の味わいから、田舎の喫茶店の話。身体障害のある兄とコーヒーとの関係。コメダ通いの日々。そして、ある授業での教師がゴルフボールをいくつも口に入れての訓示など、直接は関係ない出来事を語り、やわらかな雰囲気の文体で、大切に日々を生きることを見つめる。筋のない感性による純文学的な表現と、持ち味の良さに感銘を受けた。
【「タダノボル」野川環】】
独身で独り暮らしの多田ノボルのアパートに、中年男の山田ヒデオが現れ、ひょんなことから住みだす。費用はノブル持ちである。倉庫のバイトをするノボルに、男はおにぎりを作って持たせてくれるが、これがなかなか旨い。男はパチンコで稼ぐといって、ノボルから千円を借りるが、勝負に勝ってはこない。そのうちに、五千円を借してやった後に、家に帰るといつも横になってテレビを観ているはずの彼がいない。その後の音信もない。ノボルは、その後の生活に寂しさを感じている。バイト先の倉庫で仕事をしている時に、小学生が表の通りを通るを、可愛く感じるというフレーズを複数入れている。それが、時代としての平和感を醸し出している。生活感をのみを浮き彫りにする、視点の良さに個性があって、文章力に、上質な才気を感じさせる。
小特集・シベリア出兵・米騒動100年―というもので、以下の2編がある。
【「『シベリア出兵100年の旅』-ハバロフク・ウラジオストクー」金野文彦】は、作者が幾度目かのシベリアに今年4月に単独行での現地の様子が少しでもわかるのは、有意義であろう。
【「1918年米騒動と戦後小説―堀田善衛『夜の森』と城山三郎『鼠』をめぐって(上)」大和田茂】タイトルを読んでも、どのような関係があるのか分からなかったが、堀田善衛が極限的なリアルズムで、黒島伝治を超える残酷なシベリア兵生活を作品「夜の森」にしていたことも知らなかったので、驚いた。いずれにしても、日本の外交関係とその相手国への見方が、どのメディアも忖度報道ばかりである。余りにも相手国との歴史的な関係を無視し、目先のことだけを簡便に報道する。韓国もロシアも、それなりの自国の立場を主張する根拠があるのに、あまりにも感情的だけに関係を利用している。特に安倍政権は、日本の独立性をないがしろにし、米国従属国への強化の情報操作が目立つ。その意味で、他国の事実を知ることは重要であろう。
【「宮沢賢治の理想郷」本庄豊】
宮沢賢治の作品よりも、解説本でその中身を知ることの多い自分だが、これもまた有益な紹介である。知り合いに、調理師がいて経営のノウハウのことが書いてあると思い「注文の多い料理店」を読んでしまったという。それも素晴らしいことだ。この作品を読めばそれもないかも。しかし、人生は寿命の長さでなく、その中身だとしみじみ思う。最近の幼児の死の出来事を知るたびに、この宇宙は大いなる悲しみを包含しているのだなと、宮沢賢治の作品を想い起こす。小さな短い命も、その使命を果たしたのだ、と思いたい。
発行所=〒182-0035調布市上石原3-54-3-210、北村方、星灯編集委員会。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
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