« 文芸誌「星灯・SEITO」第7号(東京)(1) | トップページ | 【文芸時評】6月(産経新聞5月26日)石原千秋氏 »

2019年6月 9日 (日)

文芸誌「星灯・SEITO」第7号(東京)(2)

文芸誌「星灯」第7号(東京)(2)

【エッセイ「良寛さんの地震見舞い」さくむら聖いち】

 良寛さん(1758~1831)1828年の三条地震の時に。71歳でそれを体験したという。これを読んで、自分が東日本大震災を体験したのが70歳だったのではないか、と思った。このように、身近なことを連想させる書き出しで、優れている。1112日の朝8時にマグニチュード6.9というから、当時の木造家屋では壊れたのもあれば、火事でほとんど焼失したとある。地震で子供を亡くした知人の酒屋、山田杜皐ところに、お見舞いの手紙を書いたという。手紙の写真もある。達筆であるが、昔の人の読み書きの能力はすごい。この点では、世界第一の識字力の民衆であったろう。良寛さんは、山田酒屋の受難心境を熟知しながら手紙のなかに「災難に逢う時節には災難に逢うが良く候、死ぬ時節には死ぬがよし候」と言う言葉の入っていたという。

 これはお互いが、友人としてよく知り合っていたからこそのもの、という。東日本大震災の時に、この語を使った人がいたらしく、突き放した冷たい言葉、という批判が遭ったそうである。それが、時代というものか。本来親しくない人の間でも、どうしようもない状況において、この世の全存在が、宇宙的な活動の中に投げ込まれている、という実感をもつことで、生死の狭間を越えた世界で、悲しむ力の苦しさから脱け出すものを感じさせるのであるが……。

【「『文学=史』の試みー志賀直哉『真鶴』をめぐって」島村輝】

 志賀直哉といえば、自分のなかの人間的な感覚を忠実に文章化することで、小説の神様といわれた時代があった。自分は真鶴や根府川付近一帯が好きで、幾度が文学仲間といっている。釣り宿に泊ったこともある。志賀直哉の『真鶴』は、ここで概要をしっても、読んだ記憶がない。ただ、本評論では、そこから志賀直哉の時代の日本が侵略した「東アジア関係史」へと関連が見事に結び付けられる。あとがきによると、中国での講演されたもの日本語版らしい。一般論と視点の異なる文学論もあるということで、貴重な資料であろう。

【「憲法と戦後改革は町内会をどうデザインしたか」紙屋高雪】

 これは、現代性に富んだ問いかけである。現在、全国的に地域では通常の町内会とマンション自治会、管理組合など、さまざまな形態の共同体が混在して、生活を営んでいる。もともとは地域を統治する自治会は、敗戦後の米軍から太平洋戦争で銃後の兵士としての、洗脳と団結力を維持する組織として、危険視された部分があるらしい。当会員の小野友貴枝氏は「社協を問う」(文芸社)を執筆しているが、この社会福祉協議会というのは、GHQが創設を命じたのだという。マッカーサーは米国の寄付という社会貢献の思想を定着させようと、お上意識の強い自治会の対抗組織を作ろうとしたらしい、というのが、この本を読んだ自分の解釈である。草の根的で、自発的な発想の活動組織を作ろうとしたのであろう。この評論では、お上である自治体と町内会の癒着とお付き合い仲間意識から、自らの発想での町内会運営を主張している。

 現状では、町内会とマンション自治会の連携が課題になり、また「社協」は寄付が主体であるはずが、町内会に会費負担を依存したり、そのなかで町内会費を「社給」の寄付にすることに異論を唱える住民もいて、自治体も企業に寄付を依頼するなど、さまざまな兆候がでているようだ。

【「1968年とマルクス主義―加藤周一論ノート(6)」北村隆志】

 自分は経済学批判としてのマル・エン「資本論」を糸口に、宇野理論やシュンペイターを学んだ。当時の大学入学時には、近代経済学科がなかった。卒業するころに、就職には近代経済学(ケインズ理論)が必要と科目がつくられた。文学とマルクス主義を結び付けたの、バクーニンの無政府主義的理論であった。独裁政治に利用される共産主義理論しか見ていない。そうした意味で、正統的なマルクス主義思想と文学思想の関係を知るのには、この加藤周一論と言うのは、大変ためになる。労作である。ただ、社会の現実と思想でみる文学論とは、距離があるので、多くの支持者を集める理由なども知れたらよかった。《ご参考「地球座サイト;覇権国家は強奪の歴史!?箒川兵庫助

発行所=〒1820035調布市上石原354-3-210、北村方、星灯編集委員会。

紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一

|

« 文芸誌「星灯・SEITO」第7号(東京)(1) | トップページ | 【文芸時評】6月(産経新聞5月26日)石原千秋氏 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 文芸誌「星灯・SEITO」第7号(東京)(1) | トップページ | 【文芸時評】6月(産経新聞5月26日)石原千秋氏 »