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2019年4月21日 (日)

同人誌評「図書新聞」(2019・4・20)志村有弘氏

(一部抜粋)真弓創の「骨喰と龍王」(「茶話歴談」創刊号)に感動。大友宗麟に取り入るべく、大友家の宝刀骨喰を松永久秀から貰い受けようと苦心する毛利鎮実とその娘。後半登場の大内輝弘も作品に厚み。
 同じく「茶話歴談」掲載の天河発の「愛怨輝炎」は、『本朝法華験記』など諸書に伝わる安珍清姫伝説(道成寺縁起)に取材したもの。清姫の母が白蛇で、亡母が姫に取り憑いているとする着想が面白い。他の戦国期や幕末を舞台とする作品いずれもが秀作・佳作。
 たかやひろの「越前松平転封」(「港の灯」第11号)は、松平直明の明石転封を舞台に二人の武士の姿を描く。三十郎は妹小夜を寅之助に託すことと武士の意地で命を落とし、寅之助は脱藩する。背後にある家老の策謀。江戸の下町に明るく生きる寅之助と小夜の姿が救いだ。文章もうまい。
 難波田節子の「驟雨」(「季刊遠近」第69号)が、高校受験を控えた女子中学生の心裡を描いた力作。中学生の「私」が大人に接する処世術を身につけていることに、とまどいを感じないでもないが、ともあれ、巧みな表現は難波田ならではの名人芸。
 源つぐみの「方位磁石」(「函館文学学校作品2019」)は、加代子の伯父(母の姉の夫)に対する恋情を綴る。伯父は針路を間違えるな、と訓す意味で方位磁石のキーホルダーを残していったわけではあるまいが、優れた構想力を感じさせる作品だ。
 吉永和生の「静かなるの向こう側」(「海峡」第41号)は、家庭小説。吝嗇で奪衣婆と渾名されていた政子婆さんが死んだ。死ぬ頃は誰も寄りつかなかったのに、あとで捨て猫を育てていたなど、意外な一面も。取り壊される予定の婆さんの家は残されることになり、猫は孫が家に連れていった。家族は、「奪衣婆」という呼び名を「政子おばあちゃん」に格上げし、その仏壇を拝んでいる。文学世界では、こうした心温まる作品も大切だ。
 エッセーでは、上野英信特集を組む「脈」(第100号)が、松本輝夫や比嘉加津夫らの上野論を収録していて貴重。私には〈筑豊の上野英信〉という印象が強いのだが、上野朱が優しさ溢れる文章で「父の心とペンは沖縄によって解放された、と思う」・「父よ、喜ぶがよい。あなたの大切な沖縄の友は、今日もあの日のままの姿だ」と綴る言葉に感動を覚える。
 若い力を感じる「翡翠」が創刊された。同人諸氏の健筆・活躍を期待したい。「AMAZON」第493号が中道子、「鬣」第70号が大本義幸の追悼号。ご冥福をお祈りしたい。(相模女子大学名誉教授)

《参照:真弓創の梟雄松永久秀に対する父娘の苦心を描く歴史時代小説(「茶話歴談」)――難波田節子の女子中学生の心の陰影を綴る作品(「季刊遠近」)

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