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2019年3月19日 (火)

諸田 玲子=時代小説を書き続けて見えてきた大切なこと

 勤めていた外資系の化粧品会社に冷淡にもリストラされたのは30代なかば。広報部にいたご縁で、テレビ関係の方から「暇ならやってみる?」と紹介されたドラマのノベライズの仕事に、気づけば没頭していて、このとき初めて自分は書くことが好きらしいとわかったんです。オリジナルの小説を書き始めたのは、40歳を過ぎてからでした。
 時代物というジャンルを選んだのは、身近な問題を掘り下げるより、それこそシェイクスピアのように、一つの枠組みの中で「物語」を作るほうが好きだったから。歴史の知識不足なんて、仕事で必要となれば必死に調べますから、いくらでも補えます。
 私はどの時代を扱った作品も書きますが、年代的には現代から遠く離れた平安時代が、実は現代ととてもよく似ていて驚きます。貴族社会は一種の成熟社会ですから、出世を求めてワイロが横行したり、それを取り締まる「マルサ」みたいな役人がいたり、豊かな家の息子が身を持て余して非行に走ったりもするんですよ。
 一方、そうした貴族の屋敷の塀の外には、極貧者を含めて種々雑多な人間がうごめいている。たとえばアラブやアジアの国を旅行すると、この町は平安京そのものだなどと感じることがあります。歴史は繰り返すといいますが、それは時間軸と空間軸を入れ替えてみても成り立つんですよね。歴史をそういう目で見られるようになったことは、時代小説・歴史小説を書いてきたおかげでしょう。
 そして、かつて欧米に憧れていた私は、いま日本と日本人が大好きになっている。「恥」を感じる心であったり、人としての「誇り」の持ち方であったり、一言で説明するのは難しいのですが、とても大切なものを私たちは長い歴史を通して継承してきたし、これからも継承しなければいけないと気づいたんです。でも、今の日本を見回すと、それができるかどうかちょっと心配です。
 グローバル化はもちろん大切ですが、だからこそ自分たちの文化を見つめ直してほしい。グローバル化をリードする上智の後輩たちには、とくにそれを望みたいですね。だから時代小説を読めとは言いませんけど(笑)。
★諸田 玲子(もろた・れいこ)作家
文学部英文学科1976年卒業。1954年静岡市生まれ。外資系企業勤務を経て、翻訳・作家活動に入る。向田邦子氏、橋田壽賀子氏、山田洋次氏等の脚本を小説にするノベライズに携わったのち、主として歴史・時代小説を執筆。1996年『眩惑』(ラインブックス)にてデビュー。2003年『其の一日』(講談社)で第24回吉川英治文学新人賞を受賞。2007年『奸婦にあらず』(日経新聞社)にて第26回新田次郎文学賞を受賞。2012年『四十八人目の忠臣』(毎日新聞社)にて第1回歴史・時代小説大賞作品賞を受賞。新聞連載をはじめ平安、戦国、江戸、幕末、昭和を舞台にした著書多数。最新作は『風聞き草墓標』(新潮社)。
  

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