横山秀夫「ノースライト」作家の手練手管をすべて投入して
「人間がつぶれたままの状態でいることは自分には想像できないんです。たとえつぶれても、10、20年がたち、亡くなる直前になって、ふっと自分の人生に何かの益を見いだすことができたら、それもまた再起ですよね。見た目では分からない、本人が口にしない心の中の再起の兆しも、小説だったら秒単位でトレースできる」。だから人物の心の声を、緻密に、熱量をこめて描写する。
「人間は人間を見誤る。見えなかったものがどこかの段階で見えてくる、それが人生なんだ-。自分がミステリーにこだわり続けるのは、そんな思いがあるからなんですよ」
■心理の普遍性
雑誌連載は18年に終わったが「小説の求心力が作れなかった。職業作家の手練手管をすべて投入して書き直そうと思った」。結果、ストーリーは根底から変わった。単行本の冒頭には、連載に伴走し4年前に亡くなった編集者への献辞をかかげている。
警察の広報官を描いた前作『64』は英推理作家協会賞インターナショナル・ダガー賞の最終候補となり、今年、独ミステリー大賞の国際部門で第1位に選ばれた。デビュー短編集『陰の季節』も近く英国で刊行される。「いわゆる日本的な組織と個人の関係に特化して書いてきた作品が、個人主義が発達した国々でも読まれているのに驚いた」。横山ミステリーの普遍性を物語る快事でもある。
「『個人で生きる』という意志が強くても、みんな深層では、いろんなしがらみに縛られているのかもしれない。だったら、どんどん書いてやろう、と」
《参照:産経2019.3.13ライフ|本「横山秀夫さん、6年ぶり長編「ノースライト」 哀切なミステリー」》
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