« 赤井都さん!最近、どう? | トップページ | 【文芸時評】2月号(《産経1・27) 早稲田大学教授・石原千秋  »

2019年3月 3日 (日)

文芸同人誌「季刊遠近」第69号(横浜市)

【「西大門」小松原蘭】
 西大門とは韓国のソウルにある場所である。日観関係の複雑さを、日本人家族が経験したことがらを小説で、具体的に生々しく表現した秀作である。話の時代は2001年。「私」は、15年ぶりに韓国旅行に行く。語り手の私は、15年前の女子中学生時代に2年間ほど、商社に勤める父親の仕事の都合で韓国に赴任し家族で住んだ。その時の経験は、思い出すのも辛い時期であった。当時の韓国はまだ貧しく、大衆は戦前に日本によって、無理やりに属国にしたことへの憎しみ顕わにすることもあった。しかし、日本人がビジネスで住んで、お手伝いさんを雇う必要があって、韓国人の未亡人ウニを雇う。ウニは朝鮮戦争で夫を亡くしている。ウニは幼い頃に強制的に習わされた日本語を使い、日本人駐在員の元で働きながら、娘のミランを産んだのだという。
 そのミランと「私」は同世代なので友情が生まれる。そこで「私」の父親が女遊びをしたのか、母親との夫婦喧嘩が絶えなかった。さらに、父親は雇用者という優位を利用して、ミランに対して手を出した形跡があることがわかる。「私」と母は、父親を責め、ウニとミランがそれを受け入れたことに、憎しみが増す。そこから両者の葛藤が描かれる。
  メディアによって、日本と韓国のニュースは、反日と嫌韓という、感情的に色付けられたイメージを塗りつけて報道される。出来事に対して、「良い、悪い、ずるい、正直」などいう感覚をつけて、簡単に分類して、判断材料にするという人間の特性に対する批判にもなっている。
【「老人兵の時代」逆井三三】
 高齢化社会を皮肉った面白い小説。未来社会でアフリカの紛争地に戦争が始まった。兵士を派兵させなければならないが、若者が不足している。そこで、60歳から75歳を対象に徴兵制を設け、高齢者ばかりが兵士に、国家の守りに着かせる。余命短いので、それほど抵抗感はない話も組み込まれている。体力不足は、技術的に労力の少ないコンバットタンクを操って戦闘に挑む。まるで、コンピューターゲームのようだという話題もでる。まったく論理性がある。彼等は国家が死に場所を提供してくれたと考え、兵士の仕事で年金をもらうことなく、国家に貢献して死ぬことを誇り思っているのだ。風刺のきいた小説である。
【「驟雨」難波田節子】
 思春期の少女の家庭と、成長しながら恋心を抱く世代を描く。長編の一部のような作品。
【「父の幻影」藤田小太郎】
 不妊治療で、夫でない男性精子を受精する。夫は自分が無精子症であること知らない。男の子が生まれたが、成長過程で交通事故で輸血が必要となり血液型が夫と関係がないことが分かる。夫は、妻が浮気したと考え離婚する。このような定番の題材を扱う作品だが、ここで説明したようには分かりやすくない。ということは、表現手法にこだわりがあるのであろう。
【「平成30年上期報告」藤田小太郎】
 80歳になる本誌編集者の闘病と生活の月報である。日記ならぬ月記ではあるが、自分と同じ病の部分もあり、興味深く読めた。
発行所=〒225-0005横浜市青葉区荏子田2-34-7、江間方。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

|

« 赤井都さん!最近、どう? | トップページ | 【文芸時評】2月号(《産経1・27) 早稲田大学教授・石原千秋  »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 赤井都さん!最近、どう? | トップページ | 【文芸時評】2月号(《産経1・27) 早稲田大学教授・石原千秋  »