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2019年2月25日 (月)

文芸同人誌「文芸中部」110号(東海市)

【「インディアン・サマー」西澤しのぶ】
 シカゴに住む日本人家庭の9歳の子供である小谷勇也の小学校通学の様子を描く。そのなかで、シカゴの貧しいらしい家庭の子供のジョシュと仲良しになる。読みながらシカゴの人々と土地柄が面白く描かれていて、他国の非日常性なところと、その世界の情報を得るという面白さを感じた。
【「黒いカモメ」朝岡明美】
 西条大地と云う若者が昭和10年生まれの、すでに亡くなった祖父の出身地を訪ね、どんな生活をしていたかを住民にきいて歩く話。そのあと、祖父との晩年の交流ぶりが描かれる。毎回、文章や話の作り方に巧みさを感じさせ、読みやすい。ただ、今回は、孫が見知らぬ祖父の出身地を訪ねることから、書き起こされている。それが、前半での人物の存在感が薄くかんじさせる。構成として、後半の頑固らしさのある祖父の姿を描いて存在感がだせているので、これを先にして時間の順列の通りにした方がよかったのではないか、と思う。
 読んでいて、なんとなく祖父の過去を追求する大地の心の空虚さを匂わすものを感じるものがあるので、その面を書き込むことで、文学的な厚みが増すのではないか。
【「影法師 火を焚く(第十一回)」佐久間和宏】
 連続性はわからないが、今回は沢一乗という人物と、文芸作品の小評論的作品。ブルトンの「ナジャ」は、自分も読んでいる。丸山真男も。そして宮沢賢治の「無方の空」文言は好きでよく使うが、最近は、若い人たちに「無方」という文字は、誤記ではないか、といわれることが増えた。時代である。こういうスタイルも、現在の文学の形式であろう。
【「『東海文学』のことどもから」三田村博史】
 現在の「文芸中部」の前身的な同人誌「東海文学」に作者が参加した頃の活躍した作家たちの当時の消息がわかる。「東海文学」の創始者で、作品が直木賞候補作になった江夏(美子?)の場合や同候補になった井上武彦などの活躍ぶりも記されている。井上武彦の「死の武器」に対する三島由紀夫の賛辞の手紙は「手紙歳時記」で読むことができるそうである。《参照:文芸同人誌2007年「文芸中部」74号の直木賞候補・井上武彦
 また、作者自身も、さまざまな賞を受賞しているので、その当事者のみが知る経緯が面白い。黒田夏子が読売の公募で受賞している話も興味深い。自分が「文芸中部」を読む機会を得たのは2006年頃であった。井上武彦がクリスチャンの立場から死を迎える心理を描いていて、宗教色の強いものになっていたと記憶する。
【「怒る女」春川千鶴】
 マイナー的な映画監督の青地と、付き合いの長い女優アサコとの交流を描く。青地は、がんになって余命いくばくもない。短い作品だが、切れ味のよい良い文章が、作品を光らせている。
【「探しにいく」堀井清】
 高齢の父親を持つ息子の話で。嫁が突然、失踪してしまう。どうも浮気のようなことをして、帰りづらくなった様子でる。これまでは、高齢者の視点で書かれたものが多かったが、今回はその息子の視点で描く。ただ、安定した家庭なかの、波紋ともいうべきエピソードを描く。平和そうに見える世の中にも多くの混迷を隠していることを示す。
発行所=愛知県東海市加木屋泡池11-318、三田村方。
紹介者「詩人回廊」北一郎。

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