文芸同人誌「R&W」第25号(名古屋市)
【「熨斗(のし)をつける」亀山誄】
母と娘の「私」でマンション住まいをしている。自動車は使わなくなったが、駐車場は親類が車でやってくるので、契約を維持している。そのため駐車場は日ごろは空いていることが多い。すると、新しく入居した若い女性が、恋人の来訪ごとに、高級車のアウディをそこに無断で停車するようになった。図々しいカップルに、自治会に報告して、注意をしてもらう。すると、「私」の肥満を揶揄する張り紙がつけられて、反撃される。毛局は、彼等に「「熨斗(のし)」をつけてお返しをすることになる。
その他。会社の事情や人間関係が、軽快なタッチで描かれ、面白い風俗小説になっている。
【「スピカ荘の女」小路望海】
海外勤務を終えて日本に帰国するこことなった僕。妻は神経を病みセラピーに通っているらしい。その妻が、日本に戻るならシェアハウスが良いと、物色し「スピカ荘」が良いと、決める。夫婦でシェアハウスに住むというのも変だが、神経質な妻が寂しがらないのなら良いであろうと、同意する。すると妻は、そこに住む正体不明の女性と仲良くなってしまう。そこで、つぎつぎと異常な出来事に巻き込まれる。とにかく神経症の妻という人物設定が、うまく、大変スリリングな味わいをもった物語づくりに成功している。
【「カオスの目覚め」霧関忍】
夢の中のことが現実になっているように書かれたファンタジー。人間の生活感覚の幻影性を強調したお話。これはこれで現代性を感じる。
【「負のトライアングル」松本順子】
佐合家の息子、真一が行方不明になる。母親のリエが見ると、庭に何かが投げ込まれている。拾ってみると。指と血液が入っている。異変を感じたリエが息子のことを調べると、登校した真一がまだ学校についていないとわかり、行く不明がわかる。指の説明が変であるが、ミステリーである。その謎解きは、リエの夫の二重人格てきな側面とか、社会的な人間関係などを語ることに重点があり、犯人もそれなりのものになっている。アマチュア的な発想のミステリア小説として面白く読める。
【「五木寛之論」藤田充伯】
本論は、講談社の「五木寛之小説全集」月報に掲載の評論を一挙掲載したものだという。五木作品論としてのものと同時に、文学の時代性を捉えた点で、現在の文学動向に関連した優れた評論である。話はカバーニ監督の映画「愛の嵐」から糸口をとくり、思春期までの体験が、人生観に大きな影響を与えることを示す。そして、五木の思春期以前の体験がニヒリズム含んだ優しさを持つと分析する。さらに、作家として成功するなかで、当時有名になったエンターテイメントにおける量の拡大が質の変化を起こすと、弁証法的な五木の論理について、その思想のアンビバレントな精神を解説する。大衆性のなかに純文学的な問題提起を盛り込んだ、見事な評論である。月報をまとめて読むことの意義を思い知らされた。
発行所=〒460-0013愛知県名古屋市中区上前津1-4-7、松本方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
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