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2019年1月 5日 (土)

文芸同人誌「海」第Ⅱ期(太宰府)

【「あちらこちら文学散歩(第八回)最終回」井本元義】
 ランボーの伝記を追って語る。並々ならぬ傾倒である。ここでは、病を得て商人を止めて亡くなるまでの経過を、しみじみと語る。なかに、詩作を止めたその後のランボーを気にかけるのは、無意味というクローデルの意見を紹介している。作者はそれに反発している。自分は、作者に同感だが、理由は異なる。詩才を発揮しきった詩人が、表現の意欲を維持することは不自然に思うからだ。商売ではないのだから。長生きして谷川俊太郎のような生活の糧になるようなら、ランボーではありえないないくらいのことはわかる。とにかく天才の内面はわからない。有象無象の凡人には面白く読めた。作品「永遠」の訳は、わたしは、堀口大學のー空と海がつがったーが好きです。
【「白い秋」有森信二】
 加代子という息子への愛情にあふれた良き母が、偏った愛の作用に依存し過ぎて、妹の恭子を姉夫婦にあずけている。そして、結局は息子を自死に追い詰める犯人になってしまう悲劇。とにかく、筆力に文句はない。場面場面を積み重ねて、物語をすすめるという手法を熟知していて、一気に読み通せる。要するに面白いのである。しかし、息子と娘の恭子の立場の表現に書き込み不足を感じる。しかもそれをしたら、長くなってしまう。どうしたらよいか、他人の作品ながらも、自分も工夫を考えたが、解決の方法がわからない。これだけの手腕があるのだから、地域を舞台にして小説を書けば、地元の有力作家として次第に全国に広まるのではないか、とも思う。まあ、結局は表現者として、どうありたいかに関わることなので、余計なお世話であるが。
【「巡査の恋」中野薫】
 警官は公務員なので、いろいろ制約がある。その窮屈な立ち位置を描いて面白い。最近、警備の働き盛りの警官がピストル自死している。内面に知られざるストレスがあるのだろう。私は、学生時代には公安に、社会人になってからは自転車窃盗、収賄の嫌疑で取り調べを受けて来たので、いろいろな警官に出会っている。外部からでも微妙な立場の警官の姿を知ることができる。本作は、リアリズムが目的のようなので、これで良いと思う。表現力は充分で判かりやすい。実録的な要素を薄めるためには、恋をした女性警官をむちむちして、しかも筋肉質の体形を色っぽく表現できたら、フィクション味が加わるのではないか。
【「パレイドリア」高岡啓次郎】
 タイトルも理解できず、主人公が男か女か出だしでは分からず、それから読み進めた。作者の「あとがき」を読んで、語る主人公が死者であることを知り、少し考えさせられ、面白く思った。こういう場合なら「あとがき」を「まえがき」にして、それからさあ読んでみなさい、とした方が親切。趣味の問題で、読者に親切だから良いとは限らないですが…。
【「姉と僕の関係」牧草泉】
 「姉と僕」ではなく、「関係」があるので、近親相姦の話かとおもって、わくわくして読んだら、文学趣味での近親関係の話でした。なにしろ、当方は専門が経済畑で、ある文学部の教授から、「どうりで、君の話はダメな奴だの部類だとおもったよ」と言われたものだ。有象無象が、ほかの有象無象を研究するのが好きなだけで、文学はほんのその一部でしかないと思う。でも、文学に対する情熱が伝わってきて、面白かった。ところで、3日にNHKの現代資本主義の番組をみていたら、シュンペイターの言葉があって、いいぞと思ってみていたら、社会学者が経済学者は一部しか見ていなと、貶してた。まったく、とんでもない話だった。
【「静かなる奔流」井本元義】
 また、井本さんの作。巴里の彷徨が軽快に楽しく描かれ、流れるような文体で味わい深い。書き手が楽しく書くと、読んでも楽しみが増す。サンテ刑務所には無政府主義者が入れられていたとは、知らなかった。ましてや、アンリ・ルソーが入れられていたなんて…。そういえば、辻潤もパリに行っている。
 カトリーヌに似た女のジーパンの腰つきなんて、想像させられる。絵のヌードのモデルにするためのフーラを待つ時間は胸がときめくだろうな。自分も絵が好きだから、いいなあと思う。
 ところが、日本の出来事の話になると、やはり湿潤な重い感じ。しかも、ラストは、主人公は死んでいたんだね。タイトルの意味がわかった。
発行人=〒818-0101太宰府市観世音寺1-15-33、松本方。「海」編集委員会。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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コメント

ご懇切な評をいただいていましたのを、うかつにも見落としておりました。
たいへん申し訳ございません。
まことに、ありがとうございました。
本年も、海作品をどうぞよろしくお願い申し上げます。

投稿: arimori | 2019年1月15日 (火) 23時15分

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